(2) Desktop Anywhere ―― Amazon WorkSpacesを活用してデスクトップ環境を移行
2つめのアプローチは、Desktop Anywhereだ。これは、Amazon WorkSpacesというAWSの仮想デスクトップサービス(Desktop as a Service)を活用して、デスクトップ環境をAWSに移行する方法だ。
企業のデスクトップ環境にシンクライアントを導入するメリットは大きい。端末にデータが残らないためセキュリティを大幅に強化でき、サーバ側で集中管理できるため管理性も飛躍的に高まる。スマートフォンやタブレットを使ってどんな場所からでも自分のデスクトップにアクセスできるため、生産性向上にもつながる。
ただ、初期導入費用が一般のPCに比べ高いことや、アクセスのためのSSL-VPN機器などの導入・運用管理が課題だった。キャパシティプラニングやアプリケーションごとのQoS、日々のパッチ当て作業に頭を悩ませる担当者も多い。
これに対し、Amazon WorkSpacesでは、1台からスモールスタートでき提供価格もかなり安い(2500米ドル+従量から)。そのうえ、アクセスのための機器設置や管理の手間もかからない。特にメリットが大きいのは、キャパシティプランニングやパッチ当てデスクトップ管理作業から解放されることだろう。
事例としては、社内デスクトップをAmazon WorkSpacesに移行したヤマハ発動機がある。また、注目できるのは、サーバと連携して利用することで、サーバ側のリソースをフルに活用できるようになることだ。実際、テレビ東京の事例では、ビッグデータ解析のためのデスクトップ基盤をAmazon WorkSpacesに移行し成果を上げているという。
「例えば、ビッグデータ分析の際に、クラウド基盤を活用するケースは増えています。その際に、フロントのBIツールだけローカル環境に置くと、ネットワーク遅延でレスポンスが悪くなることがあります。分析基盤をクラウドに置く場合、BIツールを導入したデスクトップもクラウド環境に移行することで、サーバ側のギガビッドクラスのネットワークを最大限活用することができるようになります。デスクトップ環境の画面転送は500kbpsもあれば十分です。分析作業は大幅に改善します」
(3) All-in ―― AWSへの全面移行
3つめのアプローチであるAll-inは、AWSへの全面移行だ。ハイブリッドクラウドのデメリットは、クラウドとオンプレミスという異なる2つの管理体系が存在するため、それが運用コストに跳ね返ってくることだ。その解決策の1つが、クラウドに全面的に寄せてしまうこと。例えば、アデランスでは、ハイブリットクラウドは割高という判断のもと、3年かけて全サーバをAWS化する計画を実行中だ。
こうした3つのアプローチを実行する際にポイントになるのが「自動化」だ。オンプレミスからクラウドに移行したとして、これまでと同じ工程を同じ人員でまかなっていては、クラウドのメリットは享受できない。大石氏によると、クラウドに移行する大きなメリットはAPIを通してあらゆる作業を自動化できることにある。
「少ない人数で大きなインフラの管理が可能になります。プログラムで自動的にインフラが管理できるため、インフラのサイズと人員数が比例しなくなるのです。そこで重要になるのが適切な組み合わせを知っているかどうかです。実際、SIerは、その価値をデリバリーできるかが問われるようになってきました」
早くからAWSに取り組んできたサーバーワークスでは、そうした価値の提供で数多くの実績がある。さらに、それらのノウハウをサービスとして提供している。例えば「Cloud Automator」というツールは、AWSの運用ジョブの自動化やパッチ当ての自動化、構成レビューの自動化といった機能を提供する。サーバーワークスの調査では、AWSの利用料の70%はEC2の稼働時間だという。Cloud Automatorを導入しEC2管理を自動化することで、AWS利用料の大幅な削減も可能だ。Cloud Automatorを導入した丸紅のように、5年間で2.7億円のコスト削減を見込んでいる例もあるという。
そのうえで、大石氏は、サーバーワークスの強みは、データセンターを持たないAWS専業ベンダーとして第三者的な立場から移行を支援できること、エンタープライズ向けに特化しておりコンサルから運用までを支援できること、Cloud Aotomatorをはじめとするサービスで運用後の自動化もサポートできることを挙げ、「ノウハウとサービスの両方を持っているサーバーワークスは、ユーザーにとってもSIerにとってもベストパートナーです」と締めくくった。
このほかセミナーでは、ヤマハ発動機と日光ケミカルズの事例講演、サーバーワークスによるテクニカルセッション、アマゾン ウェブ サービス ジャパンによるAWSマイグレーション関連サービスのアップデートの講演などが行われた。ニーズの高まるAWS移行がテーマとあって集まった参加者は熱心に講演に聞き入っていた。