日本マイクロソフトは、ビジネスに合わせたアプリを現場で作成できる「Power Platform」を提供している。アプリ開発の「PowerApps」、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールの「Power BI」、システム連係ツールの「Flow」の3つで構成されるプラットフォームで、ビジネス課題の解決に活用されている。
同社は2018年末、Power Platformの活用事例やノウハウを共有する場として「ローコーディングの極み!Power Platform Day Winter '18」と題するイベントを開催した。今回はその中から、「PowerApps、Flow、Teamsを使ったローコーディング成功体験のご紹介」というセッションをレポートする。
登壇したのは、IT研修を手がけるトレノケートで、Office 365関連コースを担当している目代昌幸氏。「Japan Office 365 Users Group」でコミュニティー活動をしており、Microsoft MVP for Office Servers and Servicesを取得している。ちなみに、Office 365の導入構築に精通しているが、本職のプログラマーではないという。
トレノケートの目代昌幸氏
目代氏の入社前は、社内コミュニケーションツールに「Slack」の導入を検討していた。しかし、「Office 365を契約しているのに『Microsoft Teams』を活用しないのはもったいない」との声が上がり、同氏が導入を担当することになった。社内勉強会を開く際は、「聞いている人がみんなプロのトレーナーなので、すごいプレッシャーだった」と笑いを誘った。
チャットはメールよりもカジュアルにやりとりができる。例えば、チャットなら「ごみ箱の色を統一できませんか?」と気軽に尋ねられるが、メールでは意見具申のようになって気兼ねしてしまいがちではないだろうか。
「これは実際にあった話で、ある女性が年1回のペースでトレーナーが担当可能なコースの一覧を集めていた。入社から5年ほどずっと悩んでいたそうだが、あるとき、その作業が面倒だというのをチャットで打ち明けたところ、数秒後には別部署の担当者が『そのリストあるよ』と返信があり、簡単に解決してしまった」(目代氏)
全社員宛にメールを送るほどではないが、カジュアルにコミュニケーションが取れれば、お互いに手助けできる。困っているときに助けてもらえば、当然、「ありがとう」とお礼を返す。相手はちょっとだけ良いことをした気分になってテンションも上がる。実際は5分も掛からなかったり、そもそも情報を提供しただけで自らの手を動かしたりしていないかもしれない。それでも、お互いに感謝し合うようになると、職場環境のホスピタリティが高まるという。
「もっと気軽かつカジュアルに『ありがとう』と言ってほしい。みんなが感謝して、ホスピタリティの高い職場環境で幸せになろう」と目代氏。
カジュアルにコミュニケーションして手伝い合えればみんなハッピーに
トレノケートでは、Teamsの導入を無事に終え、全社での活用を進めている。なお、Teamsは、11月のアップデートで組織に所属するユーザー全員をメンバーとしたチームが作成可能となった。
「まず『Teams相談所』というチャンネルを作った。困ったときにとりあえず聞いてもらう場として絶対に必要になる。『こんなチャンネルあるの?』『新しいチーム作っていい?』『作るときにどんな注意が必要?』といった相談がある」(目代氏)
その他にも情報共有のための「業界動向」や、子育て相談の「おちび部」といったチームを作っているようだ。
さらに同社には、「ブラボーリスト」という感謝を伝えるためのExcelファイルが存在した。しかし、ファイルサーバに置いてあるだけで、共有さえされていなかったという。そこに着眼した目代氏は、ブラボーリストをTeamsで連係させることにした。
「アンケート作成サービスのMicrosoft Formsで作ったのは、『誰が』『何をしたか』の2項目だけ。投稿者の情報はFormsが覚えている。Formsへの投稿をトリガーにFlowが動作し、Teamsに感謝した内容が自動投稿される仕組みだ」(目代氏)
ただ、Flowで単につないだだけだと、投稿者が全て目代氏になってしまう。そこで、ユーザープロファイルを取得して、Formsへの投稿者を指定した上で、プロフィール写真なども表示できるようにした。「ありがとうの可視化をしたかった」(同氏)という。
FormsからFlowを開始、Teamsにアウトプット
最後に、セッションテーマであるPower Platformに関してのデモを紹介した。
「会社の経費で書籍を気軽に買える一方で、間違って同じものを2冊買ってしまうこともあるだろう。本棚になくても誰かが読んでいるかもしれない。これを管理できれば、知識の共有化や業務の効率化を進められる。だが、直接の利益を生まないため外注は難しかった」(目代氏)
そこで、PowerAppsでアプリを作ることにした。PowerAppsは、機能を組み合わせていくだけでビジネスアプリを開発できるツールで、非エンジニアでも利用できるのが特徴だ。
アプリには、QRコードの撮影機能を実装した。書籍のバーコードを読み取って、登録できるようになっている。書籍検索ができる「Google Book API」を利用すると、画像から検出したISBNコードから書籍に関する情報を取得してくれるのだ。取得した書籍情報は「SharePoint Online」に書き込まれ、管理に活用している。
参加者が持っていた本を使って実際にデモを披露
「プログラマーでなくても、このようなシステムを作ることができる。外部に発注できないアプリケーションでも、自らの手で開発可能だ。ブラボーリストをTeamsに連係するシステムを作ったとき、『素敵』と言われてめちゃくちゃうれしかった。カジュアルにありがとうを伝える文化を、皆さんの会社にも根付かせてほしい」(目代氏)
- 柳谷智宣(やなぎや・とものり)
- ITライター(https://peraichi.com/landing_pages/view/yanagiya)
- 1972年生まれ。1998年からIT・ビジネスカテゴリのライターとして、さまざまな雑誌、書籍、ウェブ媒体で執筆している。近年は、クラウドサービスやスタートアップ関連の動向を注視しており、多数の企業に取材、実際にプロダクトに触れることも多い。飲食店も経営しており、「原価BAR」を都内4店舗、「花円(KAEN)」をウランバートルにて展開中。著書に『銀座のバーがウイスキーを70円で売れるワケ』『Twitter Perfect GuideBook 改訂版』『クラウドの達人はなぜChromeを使うのか』『Dropbox WORKING』など。