2005年は価値への意識が定着した年
2005年は良い景気循環に入った年だったと感じます。もちろん、すべての人が実感されたわけではありませんが、良い循環が広がっていくだろうと思います。ただし、止められない流れがあります。ひとつがオープンコンピューティングの流れであり、もうひとつがリターンを明確に意識した行動パターンの定着です。ユーザーが得られる価値を明確にしていかないと、サービスや商品を受け入れていただけなくなってきています。
ROI(投資利益率)の評価指標はさまざまあり、最終的な共通の指標はお金ですが、それ以外に満足度があります。満足度は、ユーザーの状況に応じた価値であり、そうした価値をご提案するためにはバラエティが求められます。ですから、ISVやパートナーとコミュニティを作り、チームワークを発揮していく必要があります。また、チームワークを可能にするインフラストラクチャを整備し、そのレベルを常に高めていくことが大切だと感じています。
加速したオープン化とSOA
IT業界については、オープン化が進展し、アプリケーションに近い部分での価値(バリュー)でユーザーに訴えかける傾向が顕著になった年でした。同時に、オープンコンピューティングが世の中の流れとなり、その中でインフラに近い部分をコモディティ化し、オープンソースに持っていかなければビジネスが成り立たない状況になってきました。IBM自身も、40億円投資したEclipseをオープンソースとして市場に提供していますし、他社もオープンソース化され提供さるようになった年だと感じています。
日本アイ・ビー・エム(日本IBM)のソフトウェア事業にとっての2005年は、2004年のモメンタムを維持して、量的にも質的にも成長することができたと思います。継続的な品質やサポートへのフォーカス、パートナーとのエコシステム、大手ユーザーに対するアーキテクチャからのアプローチなど、一定の成果を出すことができました。
製品としては、TivoliやRationalという比較的新しい製品ブランドが大きな伸びを示しました。また、レイヤの高いビジネスインテリジェンスやコンテンツマネジメントといった分野の製品も大きく成長しています。
さらに、SOA(サービス指向アーキテクチャ)の認知度が非常に高まり、すでにSOAを実現した事例も出てきています。この傾向は、今後ますます加速されるだろうと見ています。大手のユーザーには、どの分野から着手すれば効果を可視化できるかを一緒に考えて欲しい、といった話をいただいていますし、ビジネス分析を完了してシステム化の段階に入られるユーザー、テクノロジの検証を終了されたユーザーもいらっしゃいます。
アプローチはさまざまですがSOAへの取り組みは着実に進展しています。バラエティにとんだ取り組みを経験できることは、日本IBMのエンジニアにとってもさまざまなスキルを磨くことにつながりますから、次のユーザーのお役にも立てると考えています。
オープン化によって業界全体が活性化する
ISVやパートナーの状況としては、勝ちの曲線に入った方と、これから入っていく方の2つに分かれています。ただ「小さかった希望の光がかなり大きくなってきたな」と感じていると思います。非常に優れたソリューションを持っているISVやパートナーがいますから、そうした方々と協力していくことで、ウィン・ウィン(Win-Win)の関係を築いていけると思います。
ISVやパートナーのニッチで価値あるソリューションを、世の中に出すお手伝いができればプラスのサイクルが回り始めます。今後は、ISVやパートナーとのコミュニティで活動していくことがメリットになると考えます。そのベースにあるのは「オープン性」です。オープン性とは、最終的にユーザーが選択肢を持つことを保証していくことです。
IBMでは、2004年から「オープンアーキテクチャ」「オープンソース」「オープンスタンダード」の3つをベースとした「オープンコンピューティング」を推進しています。オープンにすることによって、新しく参入するプレイヤーが増えていきます。オープンスタンダードに準拠してつくっていただけば、つながる世界が広がり、ビジネスの機会も無限大に増えてきます。業界にとっても、ソリューションを享受されるエンドユーザにとっても、価値を高めることができると考えます。インターネットが爆発したとの同様にエキサイティングな世界に入っていくと思います。
元気になったIBMのソフトウェア
ユーザーやパートナーから「最近、IBMのソフトウェアが元気になってきたね」と言われます。そう言っていただける理由は、SOAなどの新しいマーケットのオファリングができるようになったこと、あるいはソリューションだけではなくIBMの5つのブランドがそれぞれ活性化してきたことがあると思います。
我々自身の調査で、Tivoliブランドに対してユーザーからたいへん高い満足度をいただいていますし、Lotusブランドについても以前は「ウェブかLotusか」という選択肢でお悩みでしたがポータルをご提案したことで一体となりました。Rationalも2004年末ごろから非常に高い伸び率で普及し、大きな商談も増えてきました。このように5つのブランドが、ブランドとしての価値を主張し始めたことが要因だと考えています。
IBMのソフトウェアグループ内に、ユーザーの価値をベースに考える習慣が根付いてきたことが2005年の大きな収穫であり、私自身の誇りでもあります。まずは品質やサポートは、ユーザーがビジネスを行う上でIBMが最低限確保しなければならない部分です。その上で、商品がユーザーにどれだけの価値をもたらすのか、あるいはユーザーの悩みに対してIBMの製品群で何ができるのかを考え、行動することが定着したと思っています。社内の「お客様満足度向上委員会」では、ユーザーにご迷惑をおかけした度合いを測定していますが、2005年は前年と比較して半減しています。
2006年は人のスキルを高めていく
2006年は、オープンコンピューティングがますます進展するとともに、SOAが普及期に入っていくでしょう。SOAに対してどれだけの準備をしていけるかが問われる年だと考えます。そこで一番重要となるのは日本IBMのスキルです。システムを構築するのも、ユーザーにアドバイスするのも“人”ですから、その“人”にどのようなスキルをつけてもらうかが重要となります。
スキルをつけてもらうことで、その人のユーザーから見た価値が上がり、労働力の観点からも市場価値が上がり、ひいてはモラルが上がります。アウトプットは、能力にモラルを乗じたものと考えますので、能力とモラルの根底にあるスキルの向上に取り組んでまいります。
私自身は、グローバルに出てきた新しいテクノロジのデプロイのスピードが、海外と比較して日本は遅いのではないかと感じています。インターネットもブロードバンドも日本は少し遅れました。もしかするとソフトウェアも少し遅いのではないかと危惧しています。これを検証し、遅いのであれば日本の競争力にも影響することですから、スピードが上がるよう整備していく必要があると考えています。
いかに先進のテクノロジであってもマーケットが評価しなければ広がりません。IBMはさまざまな評価を受ける場を持っていますので、そうしたテクノロジを花開かせ、日本の競争力に寄与できればと考えています。それが日本のマーケットにおけるIBMの新たな価値になると思っています。