火災や水没からもデータは救える--匠の世界のデータ復旧サービス - (page 2)

増田克善

2006-11-01 10:43

データ復旧作業は匠の世界

 では、実際に物理障害を起こしたHDDのデータは、どのような作業で復旧させるのだろうか。

沼田氏写真 ワイ・イー・データ、オントラック事業部で事業部長を務める沼田理氏。

 「ひずみが生じている場合は、読めるだけデータを読んで専用サーバにイメージをバックアップします。それから専用の設備で力を加えてひずみを矯正しますが、最も軽い症状であれば、ディスクの特定のネジを締め直すだけで読み出せる場合もあります」(沼田氏)。ただし、どのネジをどれくらい調整するかは、技術者の腕にかかっているという。ワールドワイドで事業展開するオントラックには、「A社のあるモデルのHDDの場合は、どのネジをどれくらい調整すればよい」といった情報までがナレッジベース化されているという。

 もちろん、火災や水害で被災したハードウェアは、クリーンルームでヘッド面やディスク面を清掃する必要があるが、そうしたところにも技術者の匠の技が要求されるのである。

 単純なリードエラーであればツールを使い、エラーが発生したら1000回のリトライを行うといった手法でデータをイメージとしてバックアップしていく。それでも読み取れない個所があれば、そこを飛ばして読み取ったり、セクタの最後から読み取ったりしながら補完していくという手法で、すべてをサーバ上で処理していく。

「ツールで何度も読み取ったデータを差分としてサーバ上にイメージバックアップする手法は、国内でも当社以外にほとんどありません。これがデータ復旧率の向上につながります」(沼田氏)。

 同社の過去の実績では、物理障害のデータ復旧率は83%、リードエラーだけが原因の場合は90%以上に達しているという。

 データ復旧費用は、一般的には初期診断費用と実際の復旧費用があり、論理障害であるか物理障害であるか、またそれらの復旧作業の難易度によって、容量単位でランク分けされている。ただ、初期診断費用を無料とする事業者も多いが、論理障害か物理障害か程度を判定するだけのもあれば、同社のようにある程度復旧作業を実施して復旧作業の程度とコストの見積までを判定するところもある。また、実際の復旧費用についても、回収可能容量(実際に復旧できる容量)で算出する事業者と、HDDの総容量を基に算出する事業者とがある。もちろん両社の容量単価は異なる設定のため、単純比較することは難しい。

 同社の2005年度の実際のケースでは、マルチドライブ系の物理障害では、回収可能容量10GBで程度によって61万〜181万円。同ドライブ全体の平均価格は約170万円だったという。

究極の危機管理としてのデータ復旧サービス

 こうしたデータ復旧費用を安いと見るか、高いと見るかは、データの重要度によるだろう。しかしながら、現代の企業にとってはデータこそが価値であり、データの利用不全は事業継続性に重大な影響を与える。

 データ保護における危機管理の第一歩は、言うまでもなくデータのバックアップを確実に行うことである。ところが、バックアップシステムは完璧でない場合もある。また、データの高可用性を実現するRAIDにおいてもユーザーの過信があると沼田氏は指摘する。

 「RAID5構成のストレージは、1台のディスクに障害が起こってもデータ損失は免れるし、ディスクを交換して再構築を行えば完全に復旧します。ところが、同じ製造ロットで構成されているストレージは、負荷が最大になる再構築中に他のディスクが故障する危険性が非常に高い。それを認識した上で、再構築前に必ずバックアップを実施することを強く勧めます」(沼田氏)と強調する。

 バックアップシステムの不完全さ、その作業プロセスの問題など、見直すべき点は多い。データ復旧サービスは、そうしたリスクに直面したときの究極の危機管理として提供されるサービスとらえるべきだろう。

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