かつての悪名高いファイル共有ソフトウェア「BitTorrent」が不良少年だったとしたら、米国時間2月26日にデビューする予定のバージョンは、むしろ優等生だと言える。
従業員45人のBitTorrent(本社:カリフォルニア州サンフランシスコ)は、自社のソフトウェアを使った「BitTorrent Entertainment Network」と呼ばれるダウンロードサイトの立ち上げを計画している。同サイトでは、映画、テレビ番組、ゲームなどの各種デジタルメディアを5000作品以上配信することを予定している。
BitTorrentは、高速なファイル配信が可能なことで高い評価を得ており、立ち上がったばかりのオンラインビデオ市場でも十分戦える可能性がある。同社には、公称1億3500万人というユーザーベースもある。
これは、YouTube、Brightcove、Joostなど、この業界で先行する大手各社に即座に対抗するために武器となる。Joostは、SkypeやKazaaの創業者が立ち上げた新しいPtoPサービスで、Viacomなどの大手エンターテイメント企業などとも先ごろ提携している。
BitTorrentストアの開設は、同社の成功を示している。同ソフトウェアは、膨大な量の違法ビデオファイルの不法共有を助長するとの悪評を抱えていたが、幹部らは、同社がハリウッドに平和的に進出する姿勢であることを、20th Century Fox、Lions Gate、Metro-Goldwyn-Mayer Studios(MGM)などの映画会社に説得してきた。
しかし、提携はそう簡単ではなかった。BitTorrentの幹部らは、ファイル共有システムで利益を獲得できるという概念をエンターテイメント企業に納得させるため、サイト上の楽曲や映画などをデジタル著作権管理(DRM)システムで保護するなど、いくつかの大きな譲歩を余儀なくされた。
この新ストアは、同技術が既存の配信手法よりも素早くユーザーに映画を提供できることを証明したり、BitTorrentを使って事実上全くDRMのかかっていないファイルをウェブから無償で持ってくることになれたユーザーも囲い込む、といった課題に直面している。
カリフォルニア州サンフランシスコ在住の25歳の男性は、Zephyrというファーストネームだけを明かし、「企業がからむとその技術を相手にしなくなる層は常に一定の割合存在する」と語っている。Zephyrは5年以上前からBitTorrentを使って書籍、楽曲、およびビデオをダウンロードしている。「何でも無償で手に入れたがる人の数は非常に多く、彼らはおそらく、ほかの手段を見つけてファイルを共有するようになるだろう」とZephyrは語っている。
しかし、BitTorrentの幹部らは、主力企業に受け入れてもらうべく多大な努力を続けてきた。同社は2006年5月にも、Warner Bros. Entertainment Groupとの間で画期的な配信契約を結んだことを発表している。これは、ファイル共有関連会社と映画会社との間で初めて結ばれた提携の1つで、ある程度の社会的地位をBitTorrentに与え、他社との同様の提携に向けた基盤ともなった。
また、BitTorrentの社長であるAshwin Navin氏は、DRMの採用ばかりを強調しないで欲しいという。同氏は、これがBitTorrentの進化の第一段階に過ぎないとした上で、ハリウッドでもDRMに対する考え方に変化があるように思う、とも付け加えた。