ラックは11月1日、日本特有の脅威傾向を把握、分析した「JSOC侵入傾向分析レポート2007年上半期」をまとめ、公開した。このレポートは、ラックのセキュリティ監視センター「JSOC」が監視運用するセキュリティセンサーの通信記録から、不正アクセスやウイルス感染など保安上の脅威となるセキュリティインシデントの傾向を分析したもの。
レポートは定点観測によるデータを単に分析したものではなく、日本全国に設置された約700の監視センサー機器からのデータを分析しているため、日本特有の脅威傾向を把握できるという。レポートによると、2007年上半期の脅威動向として「ウェブアプリケーションの脆弱性を狙った攻撃が増加し、手口も巧妙化」「サーバーやネットワークの運用不備を狙った攻撃が増加」「2007年4月にボット感染による通信が増加」「P2Pファイル共有アプリケーションの利用が増加」の4点を挙げている。
ウェブアプリケーションの脆弱性を狙った攻撃では、昨年に比べてバッファオーバーフローの脆弱性を利用した攻撃の割合が減少し、SQLインジェクションの割合が増加している。これは、アプリケーションのセキュリティ対策が進み、バッファオーバーフローの脆弱性を持つものが減ったことが原因としている。一方、SQLインジェクションの攻撃数は昨年より約6倍も増加しており、その手法も巧妙化している。なお、攻撃元は中国のIPが94%を占め、4%ながら2位は日本であった。
サーバーやネットワークの運用不備を狙った攻撃では、プロキシサーバーを探そうとするスキャンの検知数が昨年より約2倍に増加した。プロキシサーバーは通信を中継するためのサーバーで、プロキシを介することで攻撃元を判別しにくくできる。攻撃者は中継可能なプロキシサーバーを発見すると、そのサーバーを踏み台にしてSQLインジェクション攻撃やスパムメールの送信、ボットを操るためのIRC通信の中継などに悪用する。
サーバーやネットワークの運用不備を狙った攻撃では、特にFrontPageやWebDAVの運用不備を悪用したウェブサイトの改ざん、ブルートフォース攻撃などが頻繁に行われている。ウェブサイトの改ざんは、やや減少傾向にあるものの、FTPサーバーやSSHサーバーに対するブルートフォース攻撃は徐々に増加している。ブルートフォース攻撃とは、サーバーにアクセスするためのパスワードを割り出そうとする攻撃で、パスワードが判明されるとサーバーが乗っ取られる可能性がある。
ボット感染による通信は、2007年4月に増加した。これは新入社員の入社や組織変更によって新しいパソコンを導入するケースが増える時期でもあり、セキュリティ対策や教育が不十分なために感染することが多いためだとしている。しかし、6月にもボット感染が急激に増加しており、これはパソコンへの侵入手口が巧妙化し、ボットやワームに感染してもユーザーが気づきにくくなったことが考えられる。ボットに感染すると、ユーザーが気づかないうちに遠隔操作され、ウイルスメールやスパムメールの送信、他のサイトへの攻撃を行う踏み台に使用される。
P2Pファイル共有アプリケーション利用の増加では、昨年は減少傾向にあったものが今年に入ってから増加している。また、「Winny」や「Share」が危険であるという認識が広がったことから、それ以外のファイル共有アプリケーションを利用する傾向がある。特にBitTorrentなどは、違法ファイルだけでなくOSのイメージファイルやフリーソフトの配布などにも利用されているため、検知数が増加している一因と考えられる。ただし、ファイル共有アプリケーションはどれも同様の危険性があるため、厳密な管理とユーザーへの教育、啓発活動が必要としている。