進展するHPCの「大衆化」で中規模企業も競争力強化
--Windows HPC Server 2008では、HPCの大衆化が眼目のひとつだった。その進捗はどうか。
ユーザーごとのWindows HPC Server 2008の採用率は、2009年から2010年にかけて、劇的に伸びている。現在、エンドユーザーがさらにHPCにアクセスしやすい環境を構築しているところだ。Visual Studioの開発者は世界で700万人おり、ここに、HPCと並列コンピューティングの能力が結合することで、次の段階へのマイルストーンとなる。さらに、Excelのユーザーとなると、全世界で4~5億人に上る。ここにも、クラスタリングへのアクセスが追加されることとなる。目的を達するためには、パートナーの助けが必要になるが、協力を得られるISVは35社から70社ほどに、VARは100社から350社程度にまで増加している。このようなパートナー数の増加は、我々の活動が進んでいることの指標のひとつといえるのではないか。
--これまでHPCには手が届かなかった企業への効果はあったのか。
HPCを活用できるようになった企業は、競争力を上げているようだ。これまでは、規模的に競争にならなかった大企業とも競争ができるようになったとの声が聞かれる。たとえば、建築業では、モデリングやシミュレーションなどに、HPCを活用できるようになったという例がある。また、平均的に見て、5万ドルほどの投資で、HPCを利用できる環境を整えることができるようになった。これは、数年前の5分の1の費用となる。
--Linuxクラスタ分野への進出は、どのくらい果たせたか。
Linuxによるクラスタの分野にもかなり浸透し始めている。未だにシェアは小さいものの、徐々に陣地を広げている。日本のテクニカルコンピューティング市場におけるWindowsのユニットベースのシェアは2009年(会計年度)で22.9%とみており、2010年(同)が24%程度と見込んでいる。我々は、顧客中心主義を採っており、顧客への対応に注力していれば、シェアもついてくると考えている。いまの段階は、革新的なアプリケーションやソリューションの開発をより重視している。今後は、Visual Studioがいっそう重要になってくるだろう。まず、開発者たちの心をつかむことが必要になる。そのためには、Visual Studioで、並列コンピューティングの開発をしやすくするなどの施策を考えている。
--金融機関以外での実証実験は進んでいるのか。
実証実験は、金融分野では、資本市場と保険というように限定しているが、他には、製造業、石油、ガスなどのエネルギー、デジタルコンテンツ、アニメ、ゲームデザイン、地球科学などでも実験はうまくいっている。中東の石油会社の例では、マッピングなどの機能をオフショアで提供することになり、モデリングが必要になったため専用ソフトを使用していたが、今では、HPC環境でうまく動いているという。その他、政府機関での実験も成功している。エネルギー関連のモデリング、顔認証をはじめとする防衛関連のモデリングなどの例がある。
「ソフト側こそムーアの法則の恩恵を活かそう」
--HPCにまつわる全体的な状況をどうみているか。
HPC領域の市場は急速に伸長してきている。大量のデータを活用し、並列コンピューティングを使いたいとの要求が、科学技術分野をはじめ、さまざまな産業界、政府機関などで多くなっており、より高い演算能力が求められている。スーパーコンピューティングにより、科学者、技術者は、膨大なデータの中から、意味のある情報を取り出し、1つの洞察力として活用できる。そのような流れをHPCがさらに加速している。CPUの処理性能はいっそう高くなっているわけだが、ムーアの法則はソフトの側こそ活用すべきだろう。
日本だけでなく、各国の顧客企業と話していると、近年、並列コンピューティングのツールが登場しており、それを利用することで、さまざまな洞察を得るまでの時間が短縮化され、競争力が高くなっている、というような話題が出てくる。Windows HPC Server 2008 R2により、幅広く、多数の人々が、スーパーコンピューティングを利用することが可能になる。
最終的には、より多くの人々が利用できるよう、HPCをメインストリームにもっていきたい。現状ではスキルや財源が不足しているせいでHPCが使えない、あるいは環境はあっても、アプリケーションがないというような課題がある。そのような状況を解消するため、使いやすいOSを用意したり、標準化を進めたり、パートナーによるエコシステムを通じて、HPCを誰もが使えるような環境を構築していきたい。