富士通は5月28日、中央大学、京都大学、東京工業大学、独立行政法人理化学研究所の研究チームが、同社の「T2Kオープンスパコン」を用いて、エタン、アンモニア、酸素について、分子の挙動を解明するための最適化問題を精密に計算することに世界で初めて成功したと発表した。
T2Kオープンスパコンは、富士通が京都大学学術情報メディアセンターに納入したもの。大規模並列演算部のシステムを、HPCサーバ「HX600」416台で構成している。サーバ1台あたり、AMD Opteron 8356(2.3GHz)を4基搭載し、理論ピーク演算処理性能としては61.2TFLOPSを誇る。このスパコンは、アーキテクチャ、ソフト、ユーザーニーズに対してオープンであることを目指し、筑波大学、東京大学、京都大学でハード、基本ソフト、ベンチマークテストの仕様の一部を共通化しているという。
さまざまな原子や分子などの運動を記述する「シュレーディンガー方程式」を計算することができれば、さまざまな物理や化学の現象を理解できるとされ、化学現象のしくみなどを、実験なしで解明できるといわれる。しかし、この方程式は計算式の複雑さが壁となり、これまでは、比較的簡単に計算できる場合にしか適用されなかったという。2001年に、京都大学の中田真秀氏(現、理化学研究所研究員)、中辻博教授(現、量子化学研究協会)らは、巨大なシュレーディンガー方程式を解くかわりに、別の手法で最適化問題の計算を行う方法を提案したが、ここでも限界があり、計算の高速化が課題となっていた。
今回、中央大学の藤澤克樹准教授らの研究チームは、新たに開発したソフトをT2Kオープンスパコンで大規模に実行することで、中田氏らの成果を活かし、これまで不可能だった計算を世界で初めて実現したという。T2Kオープンスパコンの128ノードを使用して計算し、使用したメモリ量は4テラバイト、コア数は2048コアであるという。
富士通は今回の計算に用いられた方法について、「複雑な分子の挙動を実験することなく計算することができ、新薬や新素材の開発、物理や化学、工学などさまざまな分野への応用が可能。また、現在いかなるコンピュータでも計算できないとされている超伝導の分野において、スパコンでの計算可能性が開ける。さらに、現在は不可能なエネルギー(電力)の貯蔵や、医療やエレクトロニクスの分野でのイノベーションも期待される」と説明している。