解説:アメリカはなぜ先発明主義にこだわるのか(こだわっていたのか)

栗原潔 (テックバイザージェイピー) 2011年09月20日 12時59分

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 米国の特許法が先発明主義から先願主義へと改正される可能性がきわめて高くなったということでちょっと話題になっています(参考記事)。今までにも米国が先願主義に移行すると話は恒例行事のように何度も持ち上がっては消えていたのですが、今回は上下院を通過したということでよほどのことがない限り改正されそうです(なお、実際の施行は1.5年から2年ほど先になります)。

 世界の国のなかで先発明主義を採用していたのはアメリカくらいだったので、この改正が行なわれれば、世界の特許制度が先願主義という点では一応統一されることになります。一般に、アメリカの特許制度は世界の他国と比べて独自性が強いですが、先発明主義はまさにその代表的要素でした。

 ここで簡単に説明しておくと、先願主義とは、同じ発明がかぶって出願された時に最初に出願した人が優先されるという制度です。一方、先発明主義はとは先に発明した人が優先されるという制度です。実際には、先発明とは言っても、米国では先に出願した方をとりあえず優先して扱い、他から物言いが付いたときに、発明日の後先を争うという制度になっています(インターフェアレンスと呼ばれる手続き)。

 一見、先発明主義の方が利にかなっているような気がしますが、先願主義の方が事務作業的に相当楽ですし、先発明主義ですと、発明が無事特許化されて事業化も準備OKとなったタイミングで、「いや実はそれはうちが先に発明してたんですよ」と言う人が出てくるかもしれないという安定性の問題がありますので、アメリカ以外の国はみな先願主義を採用していたわけです。

 では、なぜ、アメリカは先発明主義にこだわっていたのかというと、その根本的理由は個人発明家重視という点にあります。先に、アメリカの特許制度は独自性が強いと書きましたが、その多くは個人発明家重視という基本思想に由来しています。米国憲法8条には、「発明者だけが、その発明や発見についての排他的権利を有する」旨が書かれており、個人の権利としての発明者の権利が重視されていることがわかります。

 「先願主義にすると発明を迅速に出願できる大企業に対して、それだけの資金も要員もない個人発明家が不利になる」というのが米国が先願主義移行に反対していた大きな理由であるようです。ところが、実際には先発明主義だから個人発明家が有利かというと、上記のインターフェアレンスの手続きを個人で起こすのは費用的にかなり困難であり、先発明主義だから個人発明家有利だったというわけでもないようです。それよりも、先願主義に移行して、世界の他国と統一した方が、将来の「世界特許」構想実現においても有利であると判断されたということでしょう。

 この米国の個人発明家重視という思想はなかなか難しいところがあります。たとえば、現在米国の特許制度における大きな問題となっているパテント・トロールの問題にしても、「発明を実施していない者による特許権の行使をある程度制限すればよいではないか」という意見が聞かれることがあります(実際、日本を初めとする多くの国では<うまく機能しているかどうかは別として>このような制度があります)。しかし、米国的な発想ですと、発明を実施するだけの資産を持つ企業とそのような資産を持たない個人との間での交渉において個人が不利になるということから、このような改正が困難であるようです。

ZDNet Japan編集部:本稿はブログ「IT+知財:TechVisor Blog」からの転載です。執筆者の栗原潔氏は、株式会社テックバイザージェイピー代表で弁理士。IT分野に特化した知財コンサルティングを提供しています。

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