iPadの商標に関してAppleが中国で窮地に陥っています。既に、中国企業の商標権に基づいた訴えによりiPadの販売停止を命じられていますが(たとえば、「中国北京近郊で、商標侵害を理由に「iPad」が販売停止へ」参照)、さらに、輸出も禁止される可能性が出てきています(たとえば、「iPad商標権問題、中国からの輸出禁止に発展も」参照)。
メディア記事のタイトルだけ見ると、中国の商標ゴロにiPad商標を先取り出願されて困っているというような話に見えるかもしれませんが、そうではありません。iPadの商標権利者の中国企業Proview Technology(唯冠科技)は、2000年時点からiPadを中国で商標登録しています(なお、iPodの登場は2001年なのでiPodの名前をパクったということでもありません)。
問題は、AppleはProview Technology社と商標権を譲渡するという契約を結んでいたと思っていたのですが、そこには中国での権利は含まれていなかった(台湾での権利だけだった)ということのようです。当事者間の契約の問題なので外部からは細かいことはわかりませんが、中国の裁判において昨年の12月にProview Technologyの訴えが認められており、Appleは中国におけるiPadの商標権を所有していないことが認定されています。
なお、商標権の効力は、商品の製造・販売・広告等だけではなく、輸出にも及びますので販売が差止められた以上、輸出も差止められる可能性はかなり高いと思われます。(追記:その後の報道では、ただだちに輸出入禁止にはならなさそうです)。
iPadの中国からの輸出が禁止されると中国だけではなく、世界的なサプライチェーンにも影響が出てきます。大技としては中国内の製造段階では商標を付けないでおいて、中国外でiPadの名前のシールのようなものを貼る手もあるかもしれませんが、Appleのデザインポリシーとしては許容しがたいでしょう。
同様に、中国での販売に限りiPad以外の名称を使う手もあります(たとえば、EMCのミッドレンジ・ストレージ製品は米国ではCLARiiONというブランドでしたが、日本ではカーステレオのクラリオンの商標とかぶるためにCLARiXというブランドを使っていました)が、これまたApple的に許容しがたいでしょう。
Appleは、iPhoneの時は米国でCiscoと、日本ではインターホンの「アイホン」と、そして、iPadの時は日本で富士通と、等々商標権に関してはいろいろと問題を起こしつつ、何とか丸く収めてきましたが、相手が中国企業だと一筋縄ではいかなかったということでしょう。
最終的には金で解決することになるとは思いますが、言えることは(1)商標権はいったん取得できればめちゃくちゃ強力である、(2)中国企業は怖い、ということかと思います。
ZDNet Japan編集部:本稿はブログ「栗原潔のIT弁理士日記」からの転載です。執筆者の栗原潔氏は、株式会社テックバイザージェイピー代表で弁理士。IT分野に特化した知財コンサルティングを提供しています。
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