トップインタビュー

アドテクノロジーを柱にIPOを目指す--VOYAGE 宇佐美CEO

三浦優子 怒賀新也 (編集部)

2013-03-07 12:00

 価格比較サイト「ECナビ」などを運営するVOYAGE Groupは、昨年サイバーエージェントから独立し、独自に事業拡大を目指す体制となった。

 社名を最も知名度が高いECナビから変更し、アドテクノロジー事業などメディア事業以外を強化する体制へと変わったのだ。

 各界のエグゼクティブに価値創造のヒントを聞く連載「ZDNet Japan トップインタビュー」。今回は、VOYAGE Group代表取締役CEOの宇佐美進典氏に、どのような成長ビジョンを描いているのかを聞いた。

社名変更、筆頭株主変更——大きな転換期だった3年間

--ここ数年間、社名変更やMBOにより独立など大きな変化がありました。

 社名を変更した2011年当時から、実態として売り上げの半分以上がECナビ以外の事業となっていました。それに合わせた社名にする必要があるのではないかという判断です。

 われわれの事業は、ECナビをはじめとしたメディア関連事業、そしてECナビなどのメディアサイトを運営した中で培ってきた広告に関するノウハウ、技術をベースとしたアドテクノロジー関連事業、そしてその他の事業の大きく3つに分類できます。

 アドテクノロジー関連事業では、ECナビの競合となるようなメディア事業者が顧客になってきます。ECナビという社名のままでは、少々アプローチしにくく、自分たちの事業を狭めてしまうという判断から社名をVOYAGE GROUPに変更したのです。

 「VOYAGE Groupというのは何の会社?」と聞かれれば「事業を作り出していくことをネットの中でやっている会社です」ということになります。たまたま今はメディア関連事業もアドビジネスを柱にしていますが、その時代に必要な事業を作り出すことができる会社でありたいと考えています。

VOYAGE Groupの宇佐美進典社長
VOYAGE Groupの宇佐美進典社長

--VOYAGE GROUPという社名にしたのはどういう狙いからですか?

 オフィスには「AJITO」と名付けた海賊船のようなミーティングのためのバーもあります。まさに海賊みたいなイメージだということになったんですよ。そこで船、船旅といったことを意味する「VOYAGE」を社名にすると、しっくりするし、オフィスのイメージとの統一感もある。常に新しい事業を作り出していくことを目指している会社であるというところでも、イメージとピッタリだということで社名が決まりました。

--2012年5月に実施した、サイバーエージェントからのMBOにはどんな狙いがありましたか?

 われわれの理由、サイバーエージェント側の理由がそれぞれあるのではないかと思いますが、元々2001年にサイバーエージェントグループに入る時点から上場を目指していました。それから時間が経ち、自分たち自身が独自で成長を目指していかなければいけないんではないかと考えるようになりました。

 それとほぼ同じタイミングで、サイバーエージェントのビジネスがAmebaを核にしたインターネットビジネスになり、われわれのメディアビジネスやアドテクノロジーを利用したビジネスと少し距離が出てきたように感じていました。僕らの思いとサイバーエージェント側の思いが重なるタイミングで、MBOへと舵を切りました。

 現在の株主構成は ファンドのポラリス・キャピタル・グループが運営するポラリス第二号投資事業有限責任組合、株式会社電通デジタル・ホールディングス、サイバーエージェントも比率は少なくなりましたが、一部株式を持ってもらっています。あとはわれわれ役員という構成になります。

--株主構成が変わったことで、社内にはなんらかの変化があったのでしょうか?

 事業戦略には大きな変更はありませんので、社内は変わっていないと思います。ただし、役員はちょっとピリッとしましたね。ファンドが株主となり、明確に成果を出していかなければならない。そういう責任が役員の肩にかかったと思います。

--社名を変更するきっかけとなったアドテクノロジー事業ですが、VOYAGE Groupの強みはどこにあるのでしょうか?

 元々われわれはメディア事業を展開していました。その中で自分たちが広告をどこに、どのように載せるのが効果的なのか色々な試行錯誤を行ってきました。バナー広告はどこにどう置けばいいのか。メディアのマネタイジングはどう置くのが効果的なのか。自分たちが展開する中で見えてきたものがあります。そのノウハウを他社に提供することをビジネスとしています。

 各メディアのサイトを見ると「もっとこうやればうまくいくのに。もったいない」と思うことが多いです。メディアはコンテンツやサービスを作るプロであって、必ずしもマネタイズが上手であるとは限らないわけです。「それならマネタイズはわれわれがお手伝いをしますよ」というのが当社のビジネスです。アドといっても広告代理店とは違い、メディアの側に立っていることが大きな特徴です。

--宇佐美CEOから見て、現在のメディアの広告には、どんな問題点があるのでしょう?

 例えばバナー広告といっても、昔のバナー広告とは異なり、サイズの大きなものが主流となっているにも関わらず、昔のままのバナー広告と同じ感覚で利用しているケースが多いですね。テクノロジーの進化によってバナー広告のあり方も変わってしかるべきです。

--米国などでは、広告のインプレッションが生まれるたびに、広告枠を対象にした競争入札を行い、配信する広告を決める方法である「リアルタイムビッディング(RTB)」が今後広く普及するとの見方があります。

 日本でもPCサイトではそういう流れが出ていますね。ただし、広告主、パブリッシャーサイトの両方が変化し、エコシステムとして変わっていかないと難しい面もあります。

 2011年、2012年は、RTBを実践する予算を取れるよう、広告枠の考え方、出稿に関する考え方をDSP(デマンドサイドプラットフォーム)、SSP(サプライサイドプラットフォーム)としてシステム化してきました。その上での実感です。

--RTBのような動きがある中で、ウェブ広告全体としての単価は上がる方向に進むと思いますか。それとも逆に下がるでしょうか。

 より広告がセグメント化されるのではないかと考えます。これまでは「女性の利用者が大きなサイトだ」といったやや漠然としたターゲティングで出稿されてきました。それが、ターゲティングを明確にした上で広告枠の価格が決まるように変化するのではないでしょうか。

 これまでは「このネットメディアのこの枠に広告を出します」というのが広告を出す前提でした。それが「30代の働く女性が見るこのコンテンツに広告を出します」とターゲットに応じた場へ出稿するようになる。リ・ターゲティングであり、リ・マーケティングに該当する広告になってくるわけです。

 テレビや新聞といったマス広告がユーザーに商品を認知させる場として機能することと対照的に、ネットの広告は商品を選んでもらうための最後のアクションを起こすための重要な要素となるでしょう。セグメントがより明確になることで、機能がより明確になるのです。

--ネット広告の主戦場がPCからスマートフォンやタブレットにシフトするのではないかと言われています。

 スマートフォンやタブレットはPCと同じように広告を打つことはできません。ツールをプラットフォームとして活用し、どういう広告を、どういうタイミングで出すのが最適なのか、アルゴリズムを作って提供する必要があります。

 単なるバナー広告から、インタースティシャル広告をスマートフォンならではの見せ方で提供できれば、ユーザーへの認知度や満足度が上がり、広告単価も現在よりも高くなると言われています。

 ただし、インタースティシャル広告もあまり広告の出稿量が増えるとユーザーがそのメディアを享受しにくくなります。その点とどう折り合いをつけるのかという問題もあります。

 もっとも、ネット選挙運動が解禁になれば、広告というのか、アピール活動そのものが従来のものとは全く違うものになる可能性もあります。そういう動きも、われわれのアドテクノロジー事業に大きな影響を与えるでしょう。

社内連携を作る体育祭

--現在、VOYAGE Groupの課題はどんなところにあると分析していますか?

 日本に約260人、海外を含めると300人の社員がいます。売り上げ規模は80億円となりました。次の成長戦略を描くのが社長としての私の課題です。

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