クラウドの活用にあたって知っておくべき市場動向や事例を紹介する本連載。4回目はパブリッククラウドの成長エンジンと期待される中小規模企業(SMB)やクラウドの最新トレンドについて探りたい。
年平均成長率16%増、SMBに浸透するクラウド
ハードウェアなど初期投資を抑えつつ、大企業と遜色ないインフラやサービスを利用できるというクラウドのメリットは、中小規模企業(SMB)にとっては大きな魅力だ。コストや時間が限られている、IT専門スタッフを抱えることができない、といったこれまでの制限を取り払ってくれる可能性があるからだ。
ソフトウェアのSaaS、インフラのIaaS、プラットフォームのPaaSを活用して高機能で信頼性のあるインフラやサービスを必要なときに必要な分だけ購入し、規模の成長に合わせて拡張できる。もちろん、インストールや設定、アップデートやパッチなど管理の手間も削減できる――SMB市場はまさにクラウドが本領発揮する領域だ。
世界のSMB向けクラウド市場は2012年、前年の約3倍で成長し、450億ドルに達したと仮想化技術のParallelsは報告している。なお同社は日本市場について、2011年の16億ドルから年平均16%増で成長し、2015年には25億ドルに達すると予想している。パブリッククラウドにおけるSMBの重要性を示すものとしては、コンサルティングのMcKinseyが2015年にパブリッククラウド市場の65%をSMBが占めると予想、SMBはパブリッククラウドの大きな加速要因になるとまとめている。
利用が進んでいるのは、IaaS、CRMなどの業務アプリケーション(SaaS)、ウェブサイトやECサイト、コラボレーションやコミュニケーションなど。SaaSはSalesforce.comなどの専業ベンダーや既存ベンダー各社からさまざまなソリューションが提供されている対顧客向けのフロントオフィスに加え、会計や人事などバックオフィス分野もラインアップが増えている。
McKenseyはSMBがクラウドを利用するメリットとして、コスト効果も指摘する。SaaS(CRM)の場合、5年間のコストはオンプレミスと比較して23%節約できるという。IaaSの場合はさらに大きく、CPUとストレージの毎月のコスト節約は50%を上回ると試算している。
クラウドサービスブローカーはクラウド時代のSIとなるか?
このように、クラウドはSMBにとって規模やスタッフ不足が不利にならない解決策を提供するが、課題は残る。クラウドは多くの場合でコンポーネントに過ぎず、導入するだけではメリットを最大化できない。一口にクラウド型CRMやクラウド型コラボレーションソフトと言っても、ベンダーが提供するサービスは内容も料金体系も異なる。自社のニーズや目的にとって最適なサービス選びにはじまり、ほかのシステムとの連携などの統合作業も必要だ。
そこで注目されているのがなんらかの形でベンダーとユーザーとの間に仲介役として入る「クラウドサービスブローカー(CSB)」だ。CSBという言葉自体は、2009年に調査会社のGartnerが提唱したもの。クラウドサービスに付加価値を付けて特定の機能を強化したり、複数のクラウドサービスを組み合わせたり、データやプロセスを統合するなどの役割を担う。海外ではさまざまなクラウドベンダーから最適なソリューションをアグリゲーションして、プロビジョニングのための専用の管理画面を自社で用意するCBSもあれば、「Google Apps」など特定サービスや、ディザスタリカバリなど特定分野に特化したCBSもある。