多発する不正送金、横並びではない“独自のセキュリティ”が利用者を守る--住信SBI銀

小松恭郎 小池晃臣 2014年07月01日 07時30分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「PCが乗っ取られることまで想定」したセキュリティが必要

 国内でマルウェア感染に起因するネットバンキングの不正送金被害が相次いでいる。メガバンクなどは、サイトのトップページ上段で注意喚起のメッセージを大きく掲載しているものの、決定的な対策を打てていないのが現状だ。

木村紀義氏
住信SBIネット銀行 執行役員 CTO 木村紀義氏

 当然ながらインターネット専業銀行でも、こうした動向には神経を尖らせている。200万を超える口座を管理する住信SBIネット銀行 執行役員で最高技術責任者(CTO)の木村紀義氏は、「今年に入って攻撃の手口が大きく変化した」と指摘する。

 2013年の場合、同行が確認した攻撃で目立ったのは、他サイトから流出したログインIDやパスワードを手当たり次第に他のサイトへの認証でも試みる、いわゆる「リスト型アカウントハッキング」であったという。それが今年に入り急減した一方、正しいIDとパスワードの組み合わせによって直接ログインする不正アクセス被害が増加傾向にあるようなのだ。

 木村氏は「おそらく攻撃者が顧客のPCを何らかのマルウェアに感染させ、正規のログイン情報を窃取しているのではないか」とみる。

 ここで問題なのが、従来のように顧客が使う端末やネットワーク以外からの攻撃であればいくつか対処法があったものの、顧客のPC自体が乗っ取られてそこからアクセスされてしまった場合、従来のセキュリティでは対処が困難なことだ。

 「本当にそのアクセスが顧客からなのか、それとも別人からなのか。それが判別できれば対処できるが、乗っ取られた顧客のPCが正規にアクセスしてくるとなれば別。だから銀行側は今、そこまで想定したセキュリティを施す必要があるのではないでしょうか」と木村氏はいう。

 これまで多くのネットバンキングでは、通常のパスワードとワンタイムパスワードや乱数表などを組み合わせた二要素認証によって不正アクセスを防いできた。しかしこの5月には、三井住友銀行で二要素認証も無効化した上で送金先や数金額を改ざんしてしまう「MITB(Man In The Browser)攻撃」と呼ばれる新手法による被害が生じたと伝わった。これは非常に重く見るべきで、金融機関に限らず、政府機関や企業などサイト運営者のすべては、現状のセキュリティを再考する必要があるはずだ。

 では顧客のPCが第三者に乗っ取られた場合に、どう不正送金を防ぐのか。

 今年2月に住信SBIネット銀行が採用したのは、「スマート認証」という手法である。これは、顧客がスマートフォンに専用アプリをインストールすることにより、PCと合わせてスマートフォンからも取引内容の確認と承認を行うようにした認証システムだ。スマートフォン端末の識別IDや個人のキーによる認証が得られて初めて取引が成立することから、PCとスマートフォンを同時に乗っ取られない限り、不正送金・取引が発生するリスクを抑えることができるのだ。

 このような対策を施すことを決めた背景の1つに、ネット専業銀行の顧客のITリテラシーが比較的高いと考えられたことがある。口座開設自体がネットからでしか行えないため、ネットの利用に慣れた顧客が多くスマートフォンの利用率も高いと想定されたのである。

 また木村氏は、「スマート認証のような国内初のサービスを導入することで、攻撃対象となることを未然に防ぐ意図もある」と明かした。攻撃者も“攻撃の効率性”を意識しているはずで、セキュリティを突破するコストを多くの銀行が採用するシステムに投じるか、採用例が少ないものに投じるか、多少なりとも選択するはずだ。そのうえで、「今後、各銀行がユニークなセキュリティ対策を導入していくような、業界を挙げた対策が有効なのではないか」と語る。

 現状では国内ネットバンキングのセキュリティ対策はほぼ横並びであるため、ひとたび有効な攻撃手法が現れると一網打尽とされる恐れがある。しかし、それぞれの銀行が異なるセキュリティ対策を行っていれば、攻撃者は個々に攻撃方法を練らねばなないことから、被害の極小化にもつながるのだ。

 さらに踏み込み、「振込先に使われる不正口座の発見など、業界内での情報共有も大切では」と木村氏は指摘する。

 常に防御側の想像を超えて新しい攻撃手法が生み出され続けていくことは、残念ながらこの先も変わることはないと思われる。さらに高度化・複雑化する脅威に対抗するためには、もはや各企業個別にではなく、お互いに情報を共有しながら、顧客や取引先も巻き込んで対策を進めていく取り組みは、今後検討される価値があるはずだ。

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んだ方に

関連ホワイトペーパー

連載

CIO
シェアリングエコノミーの衝撃
デジタル“失敗学”
コンサルティング現場のカラクリ
Rethink Internet:インターネット再考
インシデントをもたらすヒューマンエラー
トランザクションの今昔物語
エリック松永のデジタルIQ道場
研究現場から見たAI
Fintechの正体
米ZDNet編集長Larryの独り言
大木豊成「仕事で使うアップルのトリセツ」
山本雅史「ハードから読み解くITトレンド放談」
田中克己「展望2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
松岡功「今週の明言」
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
大河原克行「エンプラ徒然」
内製化とユーザー体験の関係
「プロジェクトマネジメント」の解き方
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
セキュリティ
エンドポイントセキュリティの4つの「基礎」
企業セキュリティの歩き方
サイバーセキュリティ未来考
ネットワークセキュリティの要諦
セキュリティの論点
スペシャル
エンタープライズAIの隆盛
インシュアテックで変わる保険業界
顧客は勝手に育たない--MAツール導入の心得
「ひとり情シス」の本当のところ
ざっくり解決!SNS担当者お悩み相談室
生産性向上に効くビジネスITツール最前線
ざっくりわかるSNSマーケティング入門
課題解決のためのUI/UX
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
「Windows 10」法人導入の手引き
ソフトウェア開発パラダイムの進化
エンタープライズトレンド
10の事情
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
Gartner Symposium
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft WPC
Microsoft Connect()
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell Technologies World
AWS re:Invent
AWS Summit
PTC LiveWorx
吉田行男「より賢く活用するためのOSS最新動向」
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
中国ビジネス四方山話
ベトナムでビジネス
日本株展望
企業決算
このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]