山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

果たしてその融資情報は正しいのか--中国IT業界におけるニセ融資報告蔓延の実態

山谷剛史

2015-10-27 07:00

 シンガポールのジャーナリスト潘紹坤(Phua Yuea Koon)氏による、中国IT業界のニセ融資報告蔓延の抗議文が、中国の一部界隈で話題になっている。中国IT企業の融資について疑問に感じ、調査したところ、融資絡みのデータの8~9割は虚偽の数字であった。「シンガポール華人は、ビジネスの基本たる誠実なビジネスをしているのに、どうして中国人は公然と虚偽情報を流すのか」と訴える。

 総合O2Oサイト「58同城」は、6000万ドルの融資を受けたと発表したが実際は4500万ドルだった。P2P・動画サイトの「迅雷」は、発表では5000万ドルとしていた融資額も実際は3750万ドル、天猫(tmall)に対抗するECサイトの筆頭である「京東(jd)」が15億ドルと発表していた融資額も実際は9億6100万ドルだったという。中国では業界の常識として、非上場の名も無きベンチャー企業が発表する数字の8~9割が嘘だと言われている。


発表した情報(中央)と上場してわかった実際の情報(右)

 当連載の最近の記事で振り返っても、クラウドソーシング「威客」を代表する「猪八戒」も、デリバリーフードサービスの「餓了ma」も投資を強くアピールしていたため、その情報を記事でとりあげた。だがその発表も虚勢だったかもしれない。

 融資額の嘘は以前から噂されていた。たとえば融資額1500万を2000万と表現する「四捨五入」の手法が蔓延し、それが珍しくなくなると、融資額を2倍にも3倍にもする手法すら登場した。競争が激しくなる中で、「どこまでだったらNGとならないか」を自問自答しながら行われる際限なきチキンレースのような様相を呈している。

 中国のIT系メディアは、昔から技術やこだわりといったモノづくりの話題より、どれだけ儲かったか、どれだけ融資を得たかを話題にする。中国のIT業界が黎明期の市場が小さなころからそうであった。中国のIT系ウェブメディアでは企業がスポンサー料を支払ったPR記事が記事の多くを占めるが、モノづくりよりも業績を重視する環境が出来上がっていたからこそ「どれだけ我が企業の業績がよくなったか」をアピールするステルスマーケティング的な記事が目立つ。

 大きく見せた融資額をアピールして話題となり、一般消費者や個人投資家に認知されるだけでなく、競争相手を威嚇し、やる気を削ぐ。軌道にのった企業であれば、この程度で済むが、これがほとんどのベンチャー企業同士でも行われ、互いに生死をかけた虚偽報告が行われる。無名なベンチャー企業にとって、優秀なスタッフを雇用したいときや、新サービスに真っ先に食いつくユーザーを呼びこみたいときには虚偽報告が最も手っ取り早い手段となっており、正直な報告をすると会社を畳むまでに損する状況となっている。

 偽の融資額を算出する方法の1つとして、サービスのユーザー数、1ユーザーあたりの平均課金額などから算出するが、平均課金額を「一般的には20元」と決め打ちした上で、自らの会社でアカウントを大量に生産し、業績をよく見せかけて融資額を上げる手法がメジャーな手法ではと言われている。

 中国IT業界で長い時間培われた商習慣がそうさせたとはいえ、中国国内の閉じた環境で金が回るならまだしも、グローバルな市場で中国だけが偽情報を当たり前に出しているのは悪以外の何物でもない。しかしながら、融資を大きく見せて事業を軌道に乗せたいという彼らの思惑を逆手にとり、このような状況を見越したうえで有望な中国企業に投資し、将来回収していくという手も考えようによってはあるだろう。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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