サイバー犯罪調査の専門家に聞く、匿名の無法地帯「ダークウェブ」という現実

鈴木恭子

2016-03-07 15:23

 一般的な検索サイトからはたどり着けない「ダークウェブ」。閲覧するためには、匿名通信ネットワークである「Tor(The Onion Router)」専用のブラウザが必要だ。匿名性が高く、利用者の特定も困難であることから犯罪の温床になっていると言われている。

 「ウェブの世界を氷山に例えるなら、Googleで検索できるウェブは水面に出ている氷山の一角だ。水面下では、検索エンジンでは検索できないダークウェブの世界が広がっている」と指摘するのは、「RSA FraudAction」で陣頭指揮を執るDaniel Cohen氏だ。RSA FraudActionはフィッシングサイトなどの検知、閉鎖を手掛ける機関であり、ダークウェブも調査している。今、ダークウェブの世界で何が起こっているのかを聞いた。

取り扱われていないものを探す方が難しい

――最初に「ダークウェブ」の定義を教えてほしい。ダークウェブと同じ意味で「ダークネット」「ディープウェブ」という言葉も聞かれる。これらの違いは何か。


イスラエルにあるRSA FraudActionのヘッドを務めるDaniel Cohen氏。フィッシングサイトなどの検知や閉鎖だけでなく、サイバー犯罪の調査活動も手掛けているという

 「検索エンジンに引っかからない、匿名性の高いウェブ」という意味において、3つとも同じであると考えてよいだろう。厳密に言うと、ダークウェブとディープウェブは“セクション”が異なる。ダークウェブはウェブサイトのことを指すのに対し、ディープウェブはダークウェブ上での取引に必要な入力フォームや、犯罪者同士で形成されているフォーラムの入会手続きを行うページなど、すべのページを包含している。

――ダークウェブの規模はどのくらいなのか。

 ダークウェブには膨大な数のサイトが存在している。そもそも、検索ができないのだから、数えようがない。そこに存在しているのは、危険薬物から武器、児童ポルノに関する情報や殺人依頼など、ありとあらゆるものだ。

 また、サイバー犯罪のためのフィッシングツール、違法に取得された個人情報やクレジットカード情報も売買されている。われわれは仕事上、ダークウェブをモニタリングしているが、ここで取り扱われていないものを探す方が難しい。

ダークウェブとライト(通常)ウェブは氷山に例えられる。「われわれが普段目にしているウェブはほんの一握りにすぎない」(Cohen氏)
ダークウェブとライト(通常)ウェブは氷山に例えられる。「われわれが普段目にしているウェブはほんの一握りにすぎない」(Cohen氏)

――ダークウェブはテイクダウンさせることが難しいのか。

 「すべてのダークウェブをテイクダウンさせる」ことは、「(すべての)インターネットをダウンさせる」ことと同意語であり、現実的ではない。というより不可能だ。

 ただし、1つ誤解がある。ダークウェブという言葉から連想されるのはネガティブなイメージであるし、ダークウェブが犯罪の温床になっていることは事実だ。しかし、ダークウェブは匿名のインターネットであることから情報を公開する人を守るという役割も担っている。

 (世の中にとって)必要な情報であっても、匿名でしか公開できない場合も多い。検閲を避けるためにやむを得なくダークウェブで情報を共有しているケースもある。また、合法だが検索されたくない(一般のユーザーに見せる必要がない)ウェブサイトも多数存在する。つまり、ダークウェブは“良いこと”にも利用されているのだ。具体的な数字は誰も把握していないが、ダークウェブの世界では「(犯罪のような)悪いこと」よりも「良いこと」のために利用されている割合が多い。

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