フィッシング対策の訓練サービスを手掛ける米PhishMeは4月12日、S&JとNRIセキュアテクノロジーズと代理店契約を結び、日本向けサービスを開始すると発表した。繰り返し訓練することで従業員を鍛えていける点に強みがあるとしている。
PhishMeは、セキュリティインシデント対応サービス大手Mandiantの創業メンバーのRohyt Belani氏が2011年に創業した。サイバー攻撃や内部不正といった情報セキュリティのリスクでは技術的な対策が注目されてきたが、同社は、「最後の砦は人間」という方針から、人間を巧妙にだますフィッシング攻撃への耐性を身に付けるためのサービスに注力してきたという。
S&J 代表取締役社長の三輪信雄氏
記者会見したS&J 代表取締役社長で総務省の最高情報セキュリティアドバイザーも務める三輪信雄氏は、「人間をだまして行動させるフィッシングは、セキュリティ製品による検知や防御が非常に難しい。企業や組織では従業員がこうした脅威を気付けるように感度を高めていくことが大切」と述べた。
PhishMeのサービスでは、実際のフィッシング攻撃の手口に基づいて訓練シナリオの作成や訓練の実施、従業員などに教育コンテンツを提供する「PhishMe Simulator」、フィッシングメールなどに気が付いた従業員がセキュリティ担当者に報告できる「PhishMe Reporter」、訓練結果の集計や分析、対策強化策の実施などを行う「PhishMe Triage」、最新のフィッシング攻撃などの分析情報を提供する「PhishMe Intelligence」で構成されている。
訓練メールは実際の攻撃事例をもとに無数のテンプレートが用意されている
三輪氏によれば、国内では多数の企業や組織が標的型攻撃メールの訓練を実施しているものの、実施回数は年に数回程度にとどまる。訓練を実施しても不審なメールを開いてしまう割合を一定程度から下げられない、訓練時に従業員からの大量の問い合わせが寄せられることで担当者に負荷がかかり過ぎる、訓練に慣れた社員が実際の攻撃メールに気が付いても報告しない、といった課題がある。
こうしたことから、一部の企業や組織では、従業員が巧妙なフィッシングに気付けるようにしていくという本来の訓練の目的が形骸化している。三輪氏は、「『あやしいメールを開くな』だけではいけない。攻撃者は、1通でも開封されれば成功と考える。従業員が開封してしまう確率を下げつつ、万一開封してもすぐに報告して被害の拡大を防ぐようにすべき」と話す。PhishMeのサービスはそれらの点が網羅されていることから、代理店契約を結ぶことにしたという。
訓練の実施だけでなく、訓練結果に基づく対策強化や最新の脅威対策情報の提供までをカバーする
PhishMe アジア太平洋地区ディレクターのDuncan Thomas氏は、「従業員の9割はフィッシングの脅威を認知しているという調査があるものの、知っているだけではだめ。訓練を通じて行動を変えていく必要があり、そのためのサービスを日本にも提供していく」と話した。海外ではFortune 100の半数以上の企業が採用しているといい、中には不審なメールの開封率を50%から10%以下に低減したケースもあった。「日本では10%台から数%に減らすことが主眼になると想定しているが、特に金融など限りなく開封率をゼロに近づけたい企業や、実際の攻撃メールにすぐ対応したい企業にとっての支援になる」(三輪氏)
サービス利用によって開封率の低下だけなく、従業員の意識向上による対策効果の高まりにもつながるという
ユーザー1人あたりの年間サービス利用料は形態や規模によって異なるが、Simulatorでは5000円程度、Triageでは1万円程度、Intelligenceでは5000円程度になるという。PhishMeは初年度に国内で100社の利用を見込む。S&Jでは、国内法人向けに訓練メールの作成や訓練内容の策定支援といった同サービスのコンサルティングも行うとしている。
不審なメールの報告ボタンは、メールクライアントやブラウザのプライグインで提供され、気が付いてすぐに報告できる