第4回:要件定義で業務をシンプル化するポイント--要求の優先順位を決定する

山本英明 (IPA/SEC技術研究員)

2017-08-04 07:00

 「住まいを購入するまでのプロセスは、システム開発における要件定義とよく似ている」をコンセプトに、要件定義のプロセスを解説する本連載。今回は、ステークホルダーからの要求を整理してフィット&ギャップ分析をするプロセスを紹介する。現状の業務やシステムを把握し、玉石混交の要求をどう実現するのか……。キーワードは「シンプル化」だ。

家づくり編:標準仕様orカスタマイズ? 内装決定で重要なのは…

 千石夫妻の「家づくり」は、いよいよ内装を決める段階へと移行しました。あこがれの住まいを具現化する「内装」は、妄想と予算が無限大に膨張しがちです。夫妻はお互いの要望(要件)を精査しつつ、現実と向き合う「見積り作成」に着手しようとしていますが……。

千石夫人:私は、ホテルのようなパウダールームがほしい。浴室と洗面所、トイレが一体となったコンパクトな空間よ。もちろん、寝室の隣ね。睡眠を大切にしているから、寝る前の空間にはこだわりたいの。

千石君:風呂、トイレ、洗面所が一体だと個々のドアは不要だし、コストメリットがあるかもね。追加コストが掛からない標準仕様はシステムバスだから、それに合う内装にしよう。

千石夫人:いいえ、システムバスでは一体感が出ないわ。浴室も洗面所も、全てをタイル張りにして、ドアや間仕切りはガラスにするの。狭くても、広い空間を味わえるメリットがあるし、洗濯機も置いたら専用のスペースも不要になるでしょう。あと、お風呂のお湯で洗濯すれば、水道代も節約できるわ。

千石君:ランニングコストまで考えているなんて、すごいね。でも、完全にオプションだろうな。タイル張りにガラスのドアって聞いただけで、コストが上振れること間違いなしだ。

千石夫人:その分、(あなたの)何かを削るわ。パウダールームの変更は交渉の余地なしよ。

千石君:分かった。じゃあ次は僕の番だ。僕は室内の明るさにこだわりたい。具体的には天井から明かりを取り込むトップライト(天窓)にしたいんだ。あとは、オール電化かな。太陽光発電、蓄電池、ヒートポンプ給湯機を備えたエコなスマートハウスだよ。ガスは引かないから、標準仕様よりさらに安くなる。メリットがあるでしょ。何よりも、ランニングコストが圧倒的に安くなるからね。

千石夫人:いいえ、オール電化は初期費用の負担が大きいのよ。標準仕様をキャンセルしてもあまり値引きはされないから、ランニングコストが安くなっても元を取るのに相当な年数が掛かるわ。あと、トップライトは相当に値が張りそうね。

千石君:とりあえず最後まで聞いてよ。あとは、家じゅうを真っ白にしたいんだ。外壁も中の壁紙も、ドアやカーペットまで白で統一したい。

千石夫人:誰が掃除するのよ。

千石君:部屋の掃除は僕がするよ。その代わり、タイル張りの風呂掃除は君の担当だ。というか、今は掃除当番を決める段階じゃないよね……。

 夢のマイホームですから、妄想……ではなく要求は膨らみます。ただし、この後には「概算見積り」という現実が待っています。

 さて、1週間後。二人もお互いの要求から「削る項目」の検討を開始しました。とはいえ、現段階では概算見積もりが出ていないので、ざっくりした話に終始しているようです。

千石夫人:あなたの要求は、真っ白な家とトップライト、オール電化の家だったわよね。何を削るか決めた?

千石君:うん。いろいろ考えたんだけど、最終結論に達したよ。僕の要求は削るところなしだ。

千石夫人:えっ? もういっぺん言ってみ?

千石君:睨まないで聞いて。要求を考えると同時に、現状の暮らしも振り返ったんだ。新居には真新しい家具や最新の電化製品、デザイナーズ照明などなど、ここまで我慢した分、新しくすることばかり考えてきたよね。けれど、このテーブルや椅子、ソファだって、まだまだ使えるよ。電化製品だってガタがきているものだけ買い替えればいい。

千石夫人:それで?

千石君:今のままでもよかったり、安心して使えていたりするモノはたくさんある。だから、その「買い替え」としていた部分を少し我慢するだけで、だいぶ削れると思うんだ。

千石夫人:確かに、最初から全て新しくすることばかり考えてきたけれど、継続して使えるものはあるわね。

千石君:今持っているものを一つずつ検証して、使えるものを判断していこう。既存環境の検証は、資産の棚卸しにもなる。最初から欲張って最新環境を構築しても、結局使い勝手が悪いってことはよくあるからね。

千石夫人:そうね。ただ、あなたの言いたいことは分かるけど、言い回しがヘンよ。

 要求を整理することで、現状のよいところ、改善が必要なところが明確になりました。新しいものに囲まれるよりも、本当に必要なものだけに囲まれて暮らす「シンプルライフ」の方が快適とも考えられます。とはいえ、見積もり作成までの道のりは遠いようです。

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