現状業務を整理して業務をシンプルに
千石君:あと……自分で企画を出しておいて今さらなんですが、「コラボ商品拡充」で苦戦しています。というか、ピンチです。
巣鴨課長:ピンチをチャンスに変えてこそ、デキる責任者だよ。確か南部鉄器の老舗メーカーとコラボして、商品を開発するっていうアイデアだったよね。
千石君:はい。ちょっとこちらの「概略業務フロー図」を見てください。

千石君が最初に作成した概略業務フロー図(出典:IPA/SEC)
巣鴨課長:なかなかうまくまとまっているじゃないか。ポイントはウチのシステムと外部とのシステムとの連携だったね。協力企業の「納期の通知(納期の即時回答)」は先方のシステム対応が必要となるけれど対応してもらえそうかい? 一発で受け入れてもらえるほど甘くないよ。
千石君:そのレベルじゃないんです。提携の話自体が白紙になったんです。以前に交渉したときは好感触だったのですが、担当者が変わったら「自社サイトで販売拡充に注力するからウチとのコラボ商品はできない」と言われました。説得しようとかなりしつこく粘ったのですが……。
巣鴨課長:正式な契約を交わしたわけではないから、先方の責任を問えないな。ていうか、そういう話はすぐに報告しようか。
千石君:すみません。テンパってました。それで、すぐにほかの業者さんを探したところ、事業部時代の上長だった豊島課長が岩手県出身で、ご自身の結婚式の引出物を発注した南部鉄器のメーカーさんをご存じだったので紹介してもらいました。こちらの経緯も全てお伝えした上で、快諾いただきました。
巣鴨課長:捨てる神あれば拾う神あり、だね。ピンチは脱したじゃないか。
千石君:ピンチはそこじゃないんです。実は、新しい事業主さんは、以前の事業主さんと比較すると事業規模が小さく、全くシステム化していないんです。
巣鴨課長:表計算ソフトに手打ち入力しているパターンなんだね。
千石君:いえ、ほぼ全てを紙の台帳で管理しています。
巣鴨課長:それは厳しい状況だな。
千石君:ですから、人手を介さないと納期を確認できなくて、「納期の即時回答」は不可能です。どうしましょう。
巣鴨課長:シンプルに考えようか。「納期の即時回答」は絶対必要かい? 職人さんは24時間365日働けないよ。ちなみに、その事業主さんはメールでも受注しているの?
千石君:はい。贈答品用に受注する時には、いったん受付してから納期を確認後、翌営業日以降に納期を伝えた上で、正式な注文を受け付けています。
巣鴨課長:それ、いいじゃないか。コラボ商品も同じようなフローを回そう。コラボ商品のコンセプトは、「長く大切に使ってもらうこと」だ。早く納品時期を伝えるに越したことはないけれど、必ずしも商品を選ぶ顧客が即時性を求めているとは限らない。サービスレベルが落ちるわけではないからね。
千石君:なるほど。「現行業務のままでよい部分がある」ということですね。「新しいシステムを導入する=現在よりもよくなる」と思い込み、サービスレベルも全て上げなくてはいけないと前のめりになっていました。
巣鴨課長:新しいシステムを開発したり新たな施策を練ったりするときには、「業務の複雑性軽減の検討」や「現行業務、システムの把握」をする必要がある。そうじゃないと「何をどう改善するのか」「何を実現したいのか」がぼやけてしまうからね。
今回は、「自社製品=納期の即時回答」「コラボ商品=翌営業日以降に納期を伝えた上で正式な注文を確定」としたが、これは「お客さまに対するサービスレベルの低下」ではないよ。自信をもって突き進もう。
千石君:ありがとうございます。
巣鴨課長:ただし、一度決めた要件でも振り返ってほしい。顧客が求めることと、実現しようとするサービスレベルが合っているか、もう一度チェックが必要だ。ところで、他に問題はないよね。
千石君:はい。「概略業務フロー図」を見直して、チェックしてみます。