人間のためのAI
Nathan氏の経験では、ほとんどの企業では、テクノロジが自分の会社にとってどう役立ち、どのような場面に適しているかを把握するのに苦労しているという。特に、中規模の企業にとっては、AIが身近に感じられない場合もある。しかしNathan氏は、中規模企業は、できるだけ早くこの技術に(アウトソースするのではなく)自ら取り組み始めるべきだと考えている。
最近では競争が激化しており、AIがその鍵になっている。企業はコードを共有することには前向きだが、データに関してはそうではない。今後の競争はデータを巡るものになり、誰がもっともよいデータを利用できるかが問題になる。もし、今でも各部門に埋もれているデータを移動させるのに苦労しているようであれば、すでに世の中から2~3年は後れを取っている。
その場合は、すぐにでもこの問題にリソースを割り当てるべきだろう。なぜなら、5年後には世の中が持てる者と持たざる者に分かれてしまうからだ。中規模企業がこの流れに乗るには、同じ業界の先行事例を調べ、その経験を共有するのがよいだろう。それによって取り組みをスタートさせ、自信を得ることができる。
適切なデータ管理は、競争に参加するための前提条件であり、それなしではAIを語ることはできない。中には、いきなりAIを使い始めればいいと考える者もいるが、AIのSaaSモデルに、消費者向けの利用事例を矮小化したもの以上のものが出てくるとは考えにくい。「Alexa、フライトを予約して」というのはいいだろうが、AIを「Alexa、Kubernetesについて勉強したい」という具合に使うのは果たしてどうだろうか。到底うまくいかないだろう。
そもそも、あらゆるものがサブスクリプション形式で提供されるわけではないし、市場を引っ張る大手企業が、自社の事業の核心部分を提供することはない。そういうお題目を言う可能性はあっても、実際に実行されることはない。それには多くの実例がある。
Nathan氏は、大手テクノロジ企業が自動化するユースケースは簡単なものが多いと述べている。つまり、人間の関与を必要としないものだ。そのようなユースケースには、その会社のDNAは込められていない。このため同氏は、企業に対して、二流または三流であったとしても、自分の会社の事業の勘所を理解している専門的な企業と連携することを勧めている。
また、「AIをアウトソースする」ことも、選択肢としてはあり得ても、多くの理由からあまりいいアイデアとは言えないという。これには、データセットにバイアスが存在することや、倫理上の理由もあるが、何よりも組織内の知識を活用することが重要だからだ。
「AIにたどり着くためには、まず人間の知能から始める必要がある。知識はIT部門にあるのではなく、事業部門や営業部門にある。それをアウトソースすることはできない」(Nathan氏)