Linuxをはじめとするオープンソースソフトウェアを用いたシステム開発や運用したいと思っても、いったいどのシステムインテグレータならば安心して依頼できるのか、一定の品質で安定したシステムの構築を実現できるのか、自社で運用するにしても誰になら任せられるのかと悩むケースは少なくない。
そんなときに1つの目安となるのが、認定資格を有する技術者の存在だ。ベンダーが自社製品のサポートに関して設ける場合もあれば、業界団体が中立的な立場で実施するケースもある。いずれにせよ、一定レベルの知識やスキルを持ったエンジニアであることを証明してくれる、客観的な物差しとして活用できる。
LPI-Japanは業界中立的な団体として、日本国内で長年にわたり、Linuxをはじめとするオープンテクノロジーに関するITプロフェッショナルの育成と技術力の認定試験の普及に当たってきた。そのLPI-Japanが2018年2月、Linux技術者向けの新たな認定試験「LinuC(リナック)」を発表し、3月1日から試験配信を開始した。これに伴って、国内のオープンソース市場に黎明期から携わり、LPI-Japanをスポンサーとして支援しているNECでは、社内の教育制度の一環としてLinuCを採用し、いっそうのエンジニア育成に取り組んでいく方針だ。
その背景を、LPI-Japanの理事長を務める成井弦氏とLPI-Japan理事でNECのSI・サービス&エンジニアリング統括ユニット 主席技術主幹 OSS推進センター長を務める高橋千恵子氏に尋ねた。
日本の企業、日本の市場が求めるLinux技術者認定試験「LinuC」
LPI-Japanの理事長を務める成井弦氏
LinuCは、Linuxエンジニアとしての知識やスキルを習得していることを証明する資格試験だ。それも、LPI-Japanの理事企業や支援企業、多くのLinux専門家の協力を得て開発された、日本の企業、日本の市場が求めるレベルの技術力の認定試験であることが特徴だ。
「LPI-Japanはこれまで、カナダのLinux Professional Instituteが開発した認定試験「LPIC」の試験開発と品質強化を主導してきた実績があり、国内でその普及を推進してきた。また、日本の市場に合わせた学習環境の整備に貢献してきた実績を持つ」と成井氏は述べる。
ただ、試験問題の漏洩などの不正行為への対策が課題だ。「海外に比べ、日本ではIT資格試験ははるかに重たい意味を持つ。就職や転職、昇格・昇進、あるいは入札時の条件に資格の有無が記されることも多く、技術者個々人にとっても、またIT企業にとっても重要だ」(成井氏)
そこでLinuCは、試験漏洩がしにくい仕組みを取り入れることで、試験問題が単純な丸暗記や、漏洩により不正に売買されても意味をなさなくなるようにした。「また、合格率推移の監視や、早期検出・早期対応が可能な体制を持ち、当団体として責任を持って運営できるようにしている。」(同氏)という。
とはいえ、LPICの受験勉強をしている人が困らないように、試験範囲や認定レベルはLPICと同じものを採用している。従って市販されているLPIC受験対策本やLPI-Japanアカデミック認定校で教えているLPIC受験対策コースはLinuC受験に有効だ。
Linuxの基本操作やサーバの構築・運用・保守に関するスキルを問う「LinuC レベル1」、メールやウェブ、ファイルサーバなど、ネットワーク環境も含めたコンピュータシステムの構築・運用・保守のスキルを認定する「LinuC レベル2」、仮想化やセキュリティといった専門的な技術、あるいは異種OS混在環境のシステム構築ができる能力を認定する「LinuC レベル3」という3つのレベルで構成される点もLPICと同様だ。
さらに、既に学習に取り組んでいるエンジニアが不利益を被らないよう、今回の最初のリリースの試験範囲はLPICと同じものにしている。今後の試験範囲については、現在の開発コミュニティを拡張し、日本のみならず、グローバルな活躍の場において技術者が実際に活躍する場で備えているべき技術について分析、最適化し、信頼される日本品質のグローバル標準認定試験にしていく計画だ。「LinuCは実際の現場で本当に役に立つ人材の育成と確かな認定を求める日本の企業の期待に目的で作られた。今後も技術者の活躍する現場の声に耳を傾け、技術の潮流をしっかり見極めて、たゆまぬ改良を加え、多くの方々から支持される認定にしていく」「グローバル対応については、現在もグローバル配信されているが、まず英語版を順次提供していく予定だ。また、アジアを中心に信頼される認定ニーズの高い地域にも貢献していければと思っている」(成井氏)。
「何をするにもLinuxが当たり前」の時代、NECも社員教育プログラムに
LPI-Japan理事でNECのSI・サービス&エンジニアリング統括ユニット 主席技術主幹 OSS推進センター長を務める高橋千恵子氏
NECグループでは、十数年前、日本のOS市場がまだWindows一色だった頃から、一部の先進的な顧客の声に応える形でLinuxに注目し、利用拡大にともなってさまざまなサポートを提供してきた。
当時を知る高橋氏は、「コミュニティの後押しもあってLinuxの機能がどんどん強化されるにつれ、最初はインターネットのメールサーバやウェブサーバのように、障害が起きても問題ないところから、そして徐々にミッションクリティカルなシステムでも、Linuxが当たり前になってきた」と、その普及ぶりを振り返る。
NECもそんな市場や顧客ニーズの変化に応じて、Linuxにはじまり、データベースやミドルウェア、そしてクラウドと、さまざまな領域にまたがるオープンソースソフトウェアを扱い、支援してきた。こうした活動は、確かな技術を持つエンジニアの育成に支えられてきた。
「社内でLinux技術者を増やすため、さまざまな活動をしてきた。今では、『エンジニアならLinuxも普通に扱えなければいけない』という観点で新人教育の一環としてLinuxの教育を受けるようになっており、その流れでLinux関連の認定試験も受験している」(高橋氏)
というのも、「今多くの企業が採用に動いているクラウドコンピューティングの世界でも、オープンソースソフトウェアでクラウド環境を構築したいと言う話が出てきている。例えばOpenStackについては、LPI-Japanでも『OPCEL』という資格試験を用意しているが、OpenStackのベースで動くOSはLinuxであり、また、その上で動くOSもほとんどはLinuxだ。クラウドという領域でいろいろなシステムを構築するならLinuxを知らないと話にならない。ビッグデータの領域でもHadoopなどのソフトウェアは基本的にLinuxの上で動作する、といった具合に、何をするにもLinuxが当たり前になっている」(高橋氏)
こうした意味からも、日本市場のニーズに合わせて開発されたLinuCには期待するところが大きいという。NECでも社内の昇級・昇格試験の必要条件の1つに取り入れる計画だ。合わせて、資格取得に向けた社内教育を受けやすくするプログラムも展開し、顧客の要望に応えられるエンジニア育成を進めていく。
「こういった内容があればいいなという要望に、うまくマッチングしながら試験を開発できればと期待している。個人的にはコンテナ領域の資格試験があってもいいのではないかと考えている」(高橋氏)
エコシステムを構築し、LinuCを通じて高い価値を企業にも技術者にも提供
Linuxをはじめとするオープンソースソフトウェアは、それを支える個人やコミュニティ、ベンダー、ユーザーなどからなるエコシステムによって育てられ、支えられてきた。
LPI-Japanもその文化を踏襲している。Linuxの専門家やコミュニティ、スポンサーやビジネスパートナー、認定校など幅広い領域にまたがるエコシステムを作り上げ、継続的に試験を運営していく体制を構築してきた。また技術ドメインの広がりにともなって、LPICにはじまり、OSS-DBやHTML5、ACCEL、OPCELといった、日本のIT技術者がより良いキャリアを築くのに必要な試験アーキテクチャを構築することで、世の中における資格試験の認知度を高め、そこから得られる価値を高めてきた。
LinuCもその延長線上にあるものだ。「今後もオープンソースソフトウェア的に、エコシステムの上に成り立った認定活動を行い、高い価値を技術者にも企業にも提供していく」と成井氏は述べる。
今や基幹系システムやスーパーコンピュータといったITシステムはもちろん、組み込み機器や車載システムなど、ありとあらゆる領域で採用が広がっているLinux。最先端の技術を活用して新しいイノベーションを生み出すには、オープンソースソフトウェアやLinuxの力が不可欠だ。それを支えるエンジニアとしての力を証明するLinuCには、今後ますます注目が集まりそうだ。