「いずれ生活のために仕事をするというのは時代遅れになる。人工知能(AI)とロボットが人間に必要なものを作り、必要なサービスを提供するようになる。ただし、そこに至る道のりには多くの困難が待ち受ける。私は最終的な結末については心配していない。素晴らしい世界になるはずだ。しかし、そこに至る道のりについては心配している」(CBS News/米CNETのDan Patterson氏によるインタビューにて、SingularityNETの最高経営責任者(CEO)Ben Goertzel博士)
これは魅力的なビジョンであり、この発言は、世界の指導者や著名な企業幹部が集まって、世界を救うための議論を行う場である世界経済フォーラムで、人工知能が重要な話題の1つであったことを伝えてくれるものだ。またこの発言は、人工知能やインダストリー4.0などをはじめとする技術分野のバズワードに関して、ダボス会議に集まった人々の感覚が、一般人や、技術を生み出している人たちが現場で感じている懸念とは距離がある、浮世離れしたものであることも示している。
ダボス会議でAIに関して交わされた、いくつかの重要な発言を並べてみよう。
- SalesforceのCEOであるMarc Benioff氏は、AIが人権になると述べた。
- Goertzel氏は、少数の企業や組織が、AIやデータ、イノベーションのフローを握っていることに懸念を示した。このアプローチは容易な道のりにはならないとも述べている。同氏は、新しい汎用インテリジェンスやガバナンスの実現は、民主的なアプローチで進められるべきだと考えている。
- 欧州では研究開発投資がGDPの2%と停滞しているため、デジタル化による経済メリットの獲得やAIの分野で出遅れている。
- 労働力の再配置や再訓練は重要である。今回の世界経済フォーラムでは、今はビジネスリーダーが労働者のスキル向上や再訓練を進めながら、柔軟性を維持することにフォーカスしなければならない時期であることがテーマの1つになった。
価値観と倫理、そしてデータの利用は、ガバナンスの問題であると同時に経済、政治、社会的なシステムへの統合の問題にもなっていく。世界経済フォーラムで示された図は、第4次産業革命ではシステムの統合が重要になることを示している。筆者はこの図を見て、実現するには複雑すぎると感じたので少し笑ってしまったが、整った図だ。
筆者は、AIがテクノロジの領域を超えた問題であり、その社会への影響はやや複雑なものになることを理解した。だが個人的には、Goertzel氏のAIによるユートピアのビジョンには賛成しかねる部分もある。人間は働く存在だ。働かない人間が大量に出てくるようになったら、その心理学的な影響はどのように出てくるだろうか。まだこの問いを真剣に投げかけている人はいないようだが、筆者の考えでは、それだけの自由な時間ができてしまえば、満足感が得られない人々が世界にあふれることになるだろう。