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山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国で新型コロナの緊急事態でもフードデリバリー配達員が多い理由

山谷剛史

2020-04-23 07:00

 新型コロナウイルスの感染拡大により自由に外出ができなかった。人々の良心だけに頼るというものではない。マンション団地では人の出入りが監視・制限された。そうした状況で活躍したのが、「美団(Meituan)」や「eleme」といったフードデリバリーのO2O(Online to Offline)サービスや、「盒馬鮮生」などのニューリテール(新零售)スーパーによる食事や食材の配達サービスだ。

 一方の日本では、「UberEats」の配達員は増えてきたものの、それでも中国並みに多くの人がデリバリーを注文するようになれば、配達員は不足するのは明らかだ。あまつさえ、配達員に消毒スプレーを噴き付けるという心ないケースも報じられている。配達員の所得についても検索すれば多く出てくるが、金額的に見るとあまり魅力的ではないと紹介されている。

 中国でも多くの人が新型コロナウイルスに恐怖したのは変わりない。では、なぜ中国ではフードデリバリーの配達員を十分に確保できたのだろうか。

 まず中国の配送員の多くは出稼ぎ労働者である。美団点評研究院がまとめたレポート「2018外売騎手群体洞察報告」によると、配送員の出身は「外地農村戸籍(勤務都市出身ではない農村戸籍)」が58%、「本地農村戸籍(勤務都市の農村戸籍)」が17%で、所得の低い農村戸籍が全体の73%を占める。配送員の71%が省都級以上の規模の都市(二線都市)で勤務し、それ以下の規模の都市には29%しかいない。また小都市(四線都市、五線都市)での配送者の8割以上が、その都市の戸籍を所有しているという。

 ここから分かることは、中国のデリバリー配送員は主に農村部の低所得の人々が都市部にやってきて働いているということだ。農村部の人ばかりが働いているからといって所得が低いというわけではない。その半数以上が都市部の一般的な住民の所得に迫る程度には稼いでいる。農村住民にとって所得は魅力的だ。格差を埋められるほどの収入だからこそ多くの農村部の人が働きに来る。ところが、新型コロナによる緊急事態下で状況は少々変わった。

 新型コロナ期間の食材や料理のデリバリー状況について美団研究院がまとめた「2019年及2020年疫情期間美団騎手終業報告」というレポートによれば、2019年末の時点で美団には400万人弱の配送員がいた。中国での新型コロナのピーク期間である1月20日から3月18日まで、新たに33万6000人が登録されたというのだ。この新規登録者の6割超は、もともとその都市で働いていた工場勤務者とサービス業従業者だった(これらの職業も農村部からの人々が働いている)。仕事ができなくなり、余った時間で働くために配送員になったわけだ。そして、1日平均の受注件数も平時(1日10件以下)より大きく増え、緊急事態時には十数件が多数派となった。つまり平時より稼げる仕事になった。

 デリバリー配送員による感染拡大を恐れる住民もいるだろう。

 まず一つは無接触配送を徹底した。配送者がマスクを着用するのはもちろんのこと、配送者や配送車、運搬用品、飲食店に対して消毒を徹底し、配送員や調理師の体温を記した証明書を配達時に添付した。

 さらに、これまでは配送員が玄関までいって手渡すケースが多かった。しかし、緊急事態時にそれはできない。人との接触をできるだけ避けようという声から、マンションの入口に配達専用棚が設置されるようになり、それを管理会社のスタッフが見守るようになった。

 また美団は配送者にマスクを配布した。万一、配達員が業務中に新型コロナにかかってしまったときのために、会社負担で配達員を保険に加入させている。新型コロナによる感染の場合、1日の入院費用を150元、入院前後の診察費用を2万元、隔離時の生活保障金を1日150元、死亡時に30万元を補償する内容となっている。

 商品を手渡しせず、保険にも加入することで心理的な負担が減り、一方で人々が外出できない中で所得が増え、身体も動かせる。さまざまな施策を講じ、緊急事態下でも働きやすい環境を整えた上で、人々の買い物代行というニーズに応えたわけだ。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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