Armのプロセッサーアーキテクチャーは、さまざまなコンピューティング市場や通信市場(スマートフォンやPC、サーバーなど)で活躍している。ここで理解しておくべき最も重要な点は、Arm Holdingsが64ビットの「Arm64」といった同社チップの設計と命令セットのアーキテクチャーを所有していることだ。こういったチップを用いてシステムを構築しようとする場合、厄介な作業がArmによって肩代わりされる。
Arm Holdingsは独自に製品としてのチップを製造しているわけではない。同社は自ら製造施設を有しておらず、「パートナー」と呼ぶ他の企業にチップの権利をライセンスしている。こうした企業はArmのアーキテクチャーモデルをある種のテンプレートとして用い、Armのコアを自社の中核プロセッサーとして利用するシステムを構築している。
提供:Qualcomm
Armのパートナー企業は、自社システムにおけるArmのコア以外の部分を自由に設計するとともに、そうしたシステムを自社で製造して、あるいは他社に製造をアウトソーシングして、自社製品として販売することが許されている。サムスンやAppleといったメーカーが製造している多くのスマートフォンやタブレット、そしてQualcommが製造しているすべてのデバイスは、何らかのかたちでArmの知的財産(IP)を使用している。また「x86」搭載サーバーに対抗するような、Armをベースにしたシステムオンチップ(SoC)を搭載したサーバー、特に低消費電力サーバーや特殊用途サーバーという新たな波が押し寄せ始めている。なお、Armのコアを搭載しているデバイスはそれぞれ、独自のユニークなシステムとなる傾向がある。例えば、「Qualcomm Snapdragon 845」モバイルプロセッサーは複数の部分でArmのコアを採用している(Qualcommは7月の初めに「Snapdragon 865 Plus 5G」モバイルプラットフォームを発表した)。
Armコアの利用形態とx86搭載ノートPC/タブレットの設計形態の違い
これとは対照的に、x86ベースのPCやサーバーはパフォーマンスや互換性を目的に一連の共通仕様に従って構築されている。このようなPCでは製造時にそれほどの設計は必要とされない。その結果、ハードウェアベンダーのコストは低く抑えられるが、イノベーションや機能レベルのプレミアはソフトウェアに、そしておそらくは実装時の付加的機能によることになる。また、x86デバイスのエコシステムは、少なくともアーキテクチャーが関係する部分については、交換可能なパーツが大半を占めている(とはいえ、AMDとIntelのプロセッサーはかなり以前からソケット互換性がなくなっている)。これに対して、Armのエコシステムはメモリーやストレージ、インターフェースといったコンポーネント、そのほかにも、使用するコンポーネント向けに設計、最適化されている完成されたシステムで構成されている。
だからといって、Armベースのデバイスやアプライアンス、サーバーがIntelベースやAMDベースのものよりも自動的に優位になるとは限らない。Intelとx86は過去40年近く、コンピューティング向けプロセッサーの分野で圧倒的地位を占めてきており、Armチップもさまざまな形態でほぼ同時期、すなわち1985年から存在している。Armの歴史すべては、x86テクノロジーが完全に普及していない市場や、x86の活用が難しい、あるいは不可能な市場での成功を目指すというものだった。
Armベースのデバイスやシステムのベンダーは、タブレットにおいて、また最近ではデータセンターサーバーにおいて、さらに近いうちにはデスクトップコンピューターやノートPCの開発において、パーツの組み立てだけでは済まないようになっているはずだ。その結果、Armとx86のプロセッサーコンポーネントをユニット単位に直接比較するようなことはあまり意味を持たなくなる。というのも、デバイスやシステムはいずれをベースにしていても、設計や組み立ての方法によって、あるいはパッケージの方法によってさえも、他方を常にかつ容易に超えられるためだ。