とはいえ、すべての企業がリモートワークを実践できるわけではない。東京都が5月11日に発表した情報によれば、従業員30人以上の都内企業でテレワークを導入した割合は62.7%(同年4月調査、n=394)、テレワークを実施した社員は平均約5割にとどまった。
それでもMurph氏は「製造業や病院など対面業務が多い業種でも、マーケティングやファイナンスなど一部の部門はリモート化できる」と説明する。押印文化のある日本には当てはまりにくいものの、政府によるデジタル化の推進が順調に進めば、不動産コストの削減や場所を問わない人材採用、事業継続性の強化などリモートワークの利点を日本企業も得られる可能性が高いと言える。
当然、リモートワークにも欠点はある。「従業員がリモートワークを学ぶまでに数カ月は必要。企業側もリモートワークを考慮し、ツールやテクノロジーを用いた環境への投資が必要だ」(Murph氏)
GitLabはリモートワークを新たに導入する企業に対して、Murph氏は「多要素認証など(リモートワークを前提とした)インフラの設計や既存インフラの方向転換も必要だが、コロナ禍でリモートワークへの移行はしやすくなる」と助言した。
世界各国に従業員が点在する同社だが、世界各地の通貨や納税義務の相違を埋めるため、世界200以上の国や地域の給与額を計算する「Compensation Calculator」を活用している。「透明性を保つことを大原則に給与を支払うことで、リモートワークでも平等性を確立し、計算による偏りも取り除ける」(Murph氏)
従業員の一部がリモート、一部がオフィスで働くハイブリッドモデルは日本企業でも見かけるケースだが、Murph氏は「ハイブリッドは難しい。経営層はリモートワーカーとオフィスワーカーの従業員体験が同等であることを担保しなければならない」と述べ、リモートワークする従業員の孤立化を避けるといった施策を事前に用意することが重要だと説明した。
同社は大手企業向けリモートワーク用ハンドブックの作成に協力している。日本企業に対してMurph氏は「最初に唯一の情報源となる自社向けハンドブックを作成し、リモートワーク実践企業とのQ&Aセッションに取り組むべきだ。従業員に対するアンケート調査を通じたフィードバックで潜在的需要を探り出し、リモートワークならではの課題を管理する責任者を採用」することがリモートワーク実践への近道だと語る。