ウェブアクセシビリティー義務化の流れに日本企業はどう対応すべきか

第1回:改正障害者差別解消法でウェブアクセシビリティー義務化?--知っておくべきリスクと社会的意義

岩崎健一郎 (クニエ)

2024-03-14 07:00

 2024年4月に施行される「障害者差別解消法」の改正に伴い、民間企業にとってはこれまで「努力義務」だった「障害者の方への合理的配慮」が「義務」に変わる。これにより、今後企業の所有するウェブサイトでは、アクセシビリティーを整備する「義務」が発生する場合があると考えられる。

 既に欧米各国では、より厳しい基準で法令の整備が進んでおり、近年では「ウェブサイトから情報を入手できず、不利益を被った」との理由で利用者から提訴され、企業側に賠償金の支払いが命じられる例も実際に増えている。

 このようなことから、今後日本においてもウェブサイトのアクセシビリティー要求レベルは段階的に高まっていくことが予想され、日本の各企業もウェブアクセシビリティーを重要課題と捉え、組織としてより一層取り組んでいく必要がある状態と言える。

 しかし、日本では“ウェブアクセシビリティー”への認知度はまだまだ低いと言わざるを得ない。そこで本連載では2回に分けてウェブアクセシビリティーについて、実践的な対応方法などを含め解説する。

ウェブアクセシビリティーとはなにか

 そもそも“ウェブアクセシビリティー”とはなにか。ウェブアクセシビリティーとは、公開しているウェブサイトやアプリケーションをできるだけ多くの人にとって使いやすく理解しやすくするための概念であり、特に高齢者や視覚障がいを持った方でも情報にアクセスできるようにすることを指す。

 総務省の調査(PDF)によると、国内の視覚障がい者の方の約90%以上がインターネットを利用している ことも分かっており、障がいの有無にかかわらず、インターネット/ウェブサイトが重要な情報の入手方法になっていることがうかがい知れる。

 では、視覚障がい者の方々がウェブサイトからどのようにして情報を入手しているか皆さんはご存じだろうか。視覚障がい者の方は多くの場合、PCやスマートフォンにインストールした“音声読み上げツール”を利用して、音声情報に変換して情報を入手している。ウェブサイト内のテキスト情報などがツールで読み取れる形式になっているからこそ、必要な情報の入手や、ネットショッピングなどの実現が可能と言える。

 そのため、情報が画像化されおりツールで音声の読み上げができない場合などは、正しく情報を得られない。また、音声やキャプションのない動画コンテンツのみで情報提供されていた場合は、聴覚障がいがある方が情報を取得することができない。こういった構成でウェブサイトが構築されていた場合などが、“ウェブアクセシビリティーに対応できていない”状態ということになる。

画像1:視覚障がい者向けのアクセシビリティーに対応できていないウェブサイトのイメージ
画像1:視覚障がい者向けのアクセシビリティーに対応できていないウェブサイトのイメージ
画像2:聴覚障がい者向けのアクセシビリティーに対応できていないウェブサイトのイメージ
画像2:聴覚障がい者向けのアクセシビリティーに対応できていないウェブサイトのイメージ

なぜ今ウェブアクセシビリティーなのか

 前述の通り、2024年4月に「障害者差別解消法」の改正が施行される。これにより、条文が以下のように改正される。

  • 改正前:事業者は~(中略)~社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。
  • 改正後:事業者は~(中略)~社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

 これまでは国や地方自治体などの官公庁のみが義務の扱いだったが、今後は民間の事業者にも“合理的な配慮”が義務付けられることになる。“合理的な配慮”とは、「障害のある人から社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられた時に、負担が重すぎない範囲で対応することが求められるもの」である。

 つまり、法改正に伴い合理的な配慮が義務になるということは、2024年4月からは、企業が利用者からウェブアクセシビリティーの向上を求められれば、それに応える義務が発生することになる。

 法令の改正にも表れているように、アクセシビリティーへの関心は日本国内でも高まっており、今後より一層企業はウェブアクセシビリティーに取り組んでいく必要があると考えられる。

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