前回は、ローコード開発を進める上での業務部門担当者の関わり方と、内製での開発スキルの育成方法について3つの事例を取り上げ、ローコード開発のメリットを考察した。
業務部門主導で2カ月という短期間で新システムを完成した事例、年間24システムを開発した事例など、ローコードツールを用い短期間でシステム開発が可能となるだけではなく、業務部門主導での新たなビジネス創出や業務効率化、IT部門、業務部門における自社要員のITスキルの育成などが実現可能であることを十分理解いただけたのではないだろうか。
今回は、ローコード開発による効果と要因を分析するとともに、ローコード開発において考慮すべき点とその対策を考察する。
効果
IT部門の視点:システム開発の工数削減効果
ローコード開発の最大の効果は、やはりシステム開発における工数を大幅に削減できることではないか。第2回で紹介した事例でも、建設業での基幹システム再構築において、以前の開発手法と比較して最大で60%の工数削減を実現しており、IT部門としては非常に魅力的な手法ではないだろうか。
ここでは、なぜローコード開発で工数を削減できるか、開発工程ごとに要因を分析する。
(1)要件定義
- 要件を即決できる
- 要件の資料化、修正作業を圧縮できる
ユーザーが実際に動作する画面を見て要件を検討できるため、要件を即決でき、定義にかかる工数を圧縮できる。ローコードツール上で要件を確認しそのまま設計情報へ反映するため、資料化や要件変更に伴う資料の修正にかかる工数を削減できる。
(2)設計
- 設計書の作成を省ける
- 後工程での手戻りを抑止できる
要件を設計情報としてローコードツールにそのまま設定するため、設計書の作成を省いてもシステムを開発でき、設計書の作成にかかる工数を削減できる。また、レビューでユーザーからの要望による修正が発生した場合もすぐに反映できるため、後工程での手戻りを抑止できる。
(3)開発
- ツールがプログラムを自動生成する
- ツールが高品質なプログラムを生成する
ローコードツールがプログラムを自動生成するため、人間の作業よりプログラム生成工数を大幅に削減できる。また、ツールが高品質なプログラムを生成するため、人間がプログラミング言語を手作業で記述する際に起こり得るようなミスが生じることなく、単体テストの省略やプログラムの作成し直しという手戻りを防止し、工数を削減することができる。
ユーザーの視点:品質とユーザー満足度の向上
次にユーザーの視点でいうと、ローコード開発により、ユーザーの要件に沿った、かつ安定稼働する高い品質のシステムを利用できることが大きなメリットではないだろうか。事例からも、システム稼働後、ユーザーから高い評価を得ていることが伺える。ここでは、ローコード開発による品質やユーザー満足度の向上の実現について考察する。
(1)要件
- ビジュアルで、かつ動く状態で具体的な要件を提示できる
- ユーザーと開発側双方の共通認識レベルが大幅に向上する
ユーザーが動くプロトタイプを見ながら要件を検討できるため、曖昧さを排除したビジュアル、かつ動く状態で具体的な要件を提示できる。また、ユーザーと開発者が同じ動くプロトタイプで要件と利用イメージを確認可能なため、共通認識レベルが大幅に向上し、ユーザーの要望にあったシステムを開発でき、ユーザー満足度が向上する。
(2)期間と品質
- 短納期での開発により、よりスピーディに利用が開始でき、早くシステムによる効果を得られる
- 高品質なプログラムが生成されるため、安定稼働が期待できる
ローコード開発によりシステム開発の工数を削減できることから、システム開発の期間も短縮できることになる。つまり、ユーザーにとっては早くシステムを利用できるようになり、業務側で狙ったシステムによる効果を早期に得ることができる。
品質においても、ローコードツールが生成するプログラムは記述ミスなどのヒューマンエラーが介在しないため、高品質なシステムを利用できる。また、正しい設計情報により正しいプログラムが生成されるため、本番稼働後、潜在バグによる障害が発生する確率を減らせる。システムダウンやその改修に伴う利用停止期間などを最大限に排除でき、安定した利用が期待できる。