第1回では、ローコード開発が注目を集める背景、メリット、ハードル、そしてローコード開発が可能な領域とそのツール例をいくつか紹介した。
前回お伝えしたとおり、人材不足が課題となる中、ローコード開発はIT企業、IT部門にとって有効な手段となり得る。では具体的にどの領域に適用できるのか、企業が着手を検討するにあたっての参考となるよう、2回にわたりローコード開発の事例を紹介していきたい。
第2回では、工数削減と開発生産性向上を実現した3つの事例を取り上げ、体制や進め方、課題などから、開発プロジェクトを成功に導くポイントを考察する。
事例1:建設業での基幹システム再構築--工数の60%を削減
背景
建設業のA社は、カスタマイズしたパッケージソフトを基幹業務システムに利用していた。システムの運用開始後、大量の仕様変更が要求され、コスト、スピードの両面から実現は困難だった。そこで、基幹業務システムを再構築して解決することとした。
A社は、これまでは一つひとつの工程を順番に完了していく“ウォーターフォール“でシステムを開発していたが、基幹業務システム再構築では、短期間で実装とテストを繰り返しながら完成を目指す”アジャイル”開発を取り入れた。そして、コスト削減、ビジュアルで分かりやすい開発の実現、保守性の高さから、開発ツールの「OutSystems」を選定し、システム開発の全工程をローコード開発で推進した。
体制
体制は、A社IT部門と、OutSystemsによるシステム開発を生業とするIT企業の共同型とした。IT部門に所属する再構築前のシステム要件を熟知する1人が開発期間中IT企業側の拠点に常駐し、OutSystemsの開発スキルを取得。委託先のIT企業とともにアジャイルチームを形成し、開発を担当した。
工数削減効果
今までの開発手法で進めた場合2年程かかると思われる開発規模であったが、顧客管理、案件管理、工事管理などの主要な基幹業務機能をわずか10カ月でリリースすることができた。期間を短縮した分の工数削減を実現し、24カ月から10カ月への期間短縮で約60%という大幅な工数を削減している。
課題と解決策
ローコード開発を進めた中で、ユーザーからの要件が噴出して整理が追い付かないという課題が発生した。これは、ユーザー要件をすぐにローコードツール上へ反映し、実際に動く機能を共有できるため、ユーザーが実物を見ながらどんどん要件を思いつくためである。
これまでのシステム開発手法では、ユーザーは紙に起こされた要件定義書をレビューし、システムがリリースされる前のユーザー受入テスト(User Acceptance Testing:UAT)で初めて実際に動く機能を確認できる。その段階で新しい要件を思いついても、システムには反映できない。この確認方法の差は非常に大きい。ローコード開発の利点と筆者は考えるが、噴出する要件をいかに後工程に持ち越さず、積み残さずに済むかが重要である。
そこでA社は、要件の決定権者を兼務していたIT部門担当者が開発拠点に赴き、プロダクトオーナーとして要件の採否の即断即決を徹底することで課題を解消した。
事例2:金融業でのシステム刷新--プロトタイプを見て仕様を固定してから次の工程へ
背景
規制緩和や異業種の参入といった金融機関の競争環境が激化している中、徹底したムリ、ムダの排除を主眼にビジネスのあり方を見直す構造改革を推進するB銀行は、ITの構造改革にも取り組んでいた。
そのような状況下、約20年にわたって利用してきた外国為替予約システムを刷新する案件が発生した。このシステムは、B銀行の多数のトレーダーが外国為替証拠金(FX)取引や外国為替の売買を行う際に、チャートの分析、複数の通貨に分散させている資産の状況や為替変動による損益などの確認のために利用されており、B銀行の収益を支える重要なシステムであった。
システム刷新にあたり、IT構造改革で目指している「激しく変化する競争環境に対応できる開発スピード、より低廉な開発コスト、より高いシステム品質」の実現を目指し、開発ツールの「Web Performer」によるローコード開発を採用した。
開発の進め方
開発は、部分的にアジャイル開発を取り入れるハイブリッド型を採用した。具体的には、基本設計工程で画面のプロトタイプをユーザーとなるトレーダーが実際に見て確認。要望があれば新たなプロトタイプを作成するというプロセスを繰り返して画面仕様を固定、次の工程に移るという方式で開発した。これまでウォーターフォールで開発していた手法を一気に変えるのではなく、最もアジャイル開発を取り入れやすい工程にローコード開発を採用した。
工数削減効果
当初システム開発に約16カ月かかると想定していたが、実際には13カ月で完了し、3カ月期間を短縮した。総工数は約300人月かかったが、スクラッチ開発の想定工数に比べて30~40%少ない規模であった。
副次効果
リリースしたシステムに対しては、ツールが生成するコードが常に高品質であること、開発した画面の見やすさや使い勝手など、反応は上々であった。また改修が容易となるよう、システムの構成要素間での関連性や依存関係の小さい“疎結合なシステム”を開発したため、顧客の要望に柔軟に対応できることも大きな利点となった。
課題と解決策
このシステム開発では、トレーダーが見る画面にリアルタイムで刻々と変わるグラフを表示させる機能をツールで開発しきれないという課題が発生した。この機能は、オープンソースソフトウェア(OSS)などを活用してアドオン開発し、複雑なビジネスロジックも別途実装することで解決した。