総務省は2015年度からテレワークの普及促進を目的にテレワークの導入や活用を進めている企業や団体を「テレワーク先駆者」「テレワーク先駆者百選」として公表している。2016年度からはテレワーク先駆者百選の中から、他社が模範とすべき取り組みを進めている企業や団体に総務大臣賞を授与している。
テレワーク先駆者の定義はテレワークによる“勤務制度が整っている”こと。具体的にはテレワークが就業規則の本則、あるいは個別の規定に定められ、実際に展開していることが条件となっている。
テレワーク先駆者百選の方は、テレワークの“十分な利用実績”があることだ。ここでいう“十分な利用実績”は対象従業員が正社員の25%以上(小規模事業者の場合は50%以上)、対象従業員の50%以上、あるいは100人以上がテレワークで勤務、テレワークで勤務する従業員の平均実施日数が月平均4日以上となっている。
テレワーク先駆者百選の中で特に優れた取り組みを進めていると認められた企業に授与される総務大臣賞は、テレワークが経営面で成果がある、地方創生の面でも取り組んでいるなどを総合的に判断している。
過去に総務大臣賞を授与されたのは、2016年度がサイボウズ、ブイキューブ、明治安田生命保険、ヤフー、2017年度がNTTドコモ、沖ワークウェル、大同生命、日本マイクロソフト、ネットワンシステムズ、2018年度が向洋電機土木、日本ユニシス、フジ住宅、三井住友海上火災保険、WORK SMILE LABO(旧石井事務機センター)、2019年度がアフラック、シックス・アパート、明豊ファシリティワークス、リコージャパンとなっている。
テレワークは、ワークライフバランスや働き方改革の文脈で語られるが、これに加えて、2020年に開催予定だった東京五輪での交通渋滞への対応策という側面もある。さらにいまだ収束のめどがつかないコロナ禍での事業継続対策としても活用されるようになっている。
10月30日に発表された2020年度の総務大臣賞は、江崎グリコ、キャスター、チューリッヒ保険、富士通、八尾トーヨー住器の5社が受賞している。
江崎グリコ(大阪市西淀川区、単体従業員数1525人)は、本社を含めて国内に10拠点、17の工場を抱えている。同社は2015年から育児や介護の従事者の両立支援策としてテレワークを活用するとともに、障がい者の就業支援や自然災害時の従業員の安全確保の観点からもテレワークを活用している。
そうした同社は、コロナ禍以前から6割以上の従業員がテレワークを活用しているが、現在も感染予防対策として約8割が在宅勤務となっている。
宮崎県西都市に本社を構えるキャスターは2014年に「リモートワークを当たり前にする」をミッションに創業。従業員数は約300人だが、業務委託者を含めると700人以上がテレワークで業務を進めている。人材派遣が事業の柱だが、バックオフィスなどをオンラインで代行するアシスタントサービス「CASTER BIZ」を提供するなどの“オンラインアシスタント”事業も手掛けている。
創業時のミッションにもある通り、同社の場合、テレワークでの業務を前提に組織を構築し、業務フローを設計している。近年は、テレワークを導入する企業を支援する事業も展開しており、その中でテレワークの導入ポイントや働き方の実践例を公開している。宮崎県椎葉村と連携してワーケーション体験も開催している。
1986年設立で損害保険のチューリッヒ保険(中野区)の従業員数は約1140人。同社は2019年に業務の一部を在宅勤務に切り替え。2020年4月の緊急事態宣言を受けてコールセンターを含めて全部門の業務を原則在宅勤務に移行しており、実施率は約95%という。同社は、人口流出が常態化している長崎県にオフィスを開設して、地元人材を積極的に採用していることも評価されている。
単体従業員数約3万2500人の富士通は、緊急事態宣言以降、原則テレワーク勤務となり、実施率は約90%。緊急事態宣言解除後も、製造拠点などを除いた、約8万人の国内グループ従業員の勤務形態を「テレワークを基本」にしており、実施率は約80%と言う。テレワークと出張で対応することで単身赴任者を在宅勤務に切り替えたことも評価されている。
1974年設立の八尾トーヨー住器(大阪府八尾市)は住宅用建材や住宅設備機器、外装建材などを販売。従業員数は134人。同社は、オンライン会議システムやサテライトオフィス、モバイルワークを活用して、移動時間削減に努めており、2019年度の残業時間は2017年度の37%になっているとしている。
そうした施策からライフイベントによる離職はゼロなどの効果をもたらしているという。中古住宅や古民家を活用したサテライトオフィスで空き家対策や地域の魅力向上に寄与していることも評価された。