システム化によって手順自体を大きく短縮することができ、何より紙が大幅に減りました。申告書はシステム化されるため、取り扱う紙は金融機関等が発行する各種証明書のみ。そのため、発送の手間・チェックの手間も大幅に削減できました。
しかし証明書に関しては依然として紙であり、社内ではシステム化できない部分です。社員が入力した申告書のデータに間違いがないか、証明書と突き合わせて内容をチェックする業務は、短期間で行わなければいけないこともあり、負担が大きくなっていました。
例えば、年末調整の対象者が2万5000人の別の企業では、人事部門4人と派遣社員10人が約1カ月半、チェック業務を行っています。紙ベースの証明書が残っている限り、アナログなチェック業務が発生し、年末調整の完全な電子化は不可能とされてきました。
2020年10月に解禁された年末調整電子化とは
そして今回、最後に残った紙である証明書も、遂に電子化されることになりました。平成30年度税制改正により、令和2年(2020年)分の年末調整から各種証明書の電子提出・電子保管が認められまたのです(住宅借入金等特別控除申告書の電子提出・電子保管も同様に認められる)。これにより、金融機関から提供される証明書のデータを利用して年末調整を行うことが可能となり、年末調整の完全電子化が実現可能となりました。
年末調整の電子化には2つの方法が用意されています。一つは保険会社や金融機関のウェブサイトなどから社員が証明書のデータをダウンロードする方法。取得した証明書のデータを、年末調整を行うシステムにアップロードすることで、申告書のデータとともに提出することができます。
もう一つはマイナポータルを利用して、証明書のデータを取得する方法。マイナポータルと年末調整を行うシステムを連携することで、マイナポータルを経由して保険会社や金融機関から証明書のデータを取得し、そのままシステムへ取り込むことができます。
証明書の電子化により、紙の証明書を提出する必要がなくなるので、「各種証明書は紙で提出」「証明書の提出状況を確認、発送」の手順は不要となります。また、証明書をデータで取り込むことで申告書への転記が不要となり、記入ミスも減るでしょう。
そのため、「申告内容のチェック」も不要となりますね。つまり年末調整業務は、社員が証明書のデータをシステムに取り込み、その他の必要情報を記入し提出することで、ほぼ完了することになりました。社員にとっても、人事部門にとっても、大幅な業務改善効果が期待できます。
今はまだ実施できない? 電子化を阻む壁
期待が大きい年末調整電子化。しかし、実施初年度である2020年は十分な効果が期待できず、実施に踏み切る企業は少ないと思われます。その最大の理由は、証明書のデータを提供する保険会社や金融機関が非常に少ないことです。
Works Human Intelligenceが金融機関62社を対象に調査したところ、提供を決定している生命保険会社は16社、損害保険会社は1社、住宅関連では1法人のみという状況です(10月2日時点)。2019年のWorks Human Intelligenceの状況に当てはめると、生命保険でも20%弱しかカバーできません。
これでは、仮に年末調整電子化を実施しようとしても、証明書をデータで提出するケースと紙で提出するケースが混在することになります。社員は混乱するでしょうし、人事部門もかえって負担が増えてしまうでしょう。