海外コメンタリー

感情検知AIとアイトラッキング技術の出会いは何を生み出すか

Greg Nichols (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2021-06-15 06:30

 人間の条件の1つは、他人に共感する能力を備えていることだ。では、機械が人間の感情を読み取る能力を身につけたら、何が起きるのだろうか?

 アイトラッキング技術を得意とする人工知能(AI)企業による感情検知ソフトウェア企業の買収が合意に至ったことで、その実現が現実味を帯びてきた。Smart EyeAffectivaは、Smart EyeがAffectivaを7350万ドル(約80億円)で買収することで合意したことを明らかにした。

 この買収は、運転体験の向上のために感情検知AIを積極的に導入しようとしている自動車業界において、両社が優位な立場を占めるための一手だ。両社はOEMメーカーとも関係が深いが(Smart Eyeは世界の主要なOEMメーカー20社のうち12社と契約を結んでいる)、ハイエンドモデルの自動車で「ドライバーモニタリングシステム」(DMS)が標準的な装備になり、中流層向けの車種にも採用され始めたことで、この分野の競争は激化している。

 Smart Eyeの最高経営責任者(CEO)Martin Krantz氏は「私たちは、DMSの分野がキャビン全体を監視する車内センシング技術に進化する過程を観察する中で、Affectivaを注目すべき重要なプレイヤーとして認識するようになった」と述べている。「感情認識AI分野の確立におけるAffectivaの先駆的な業績は、この技術が市場に大規模に導入されるに当たって、強力なプラットフォームの役割を果たした。究極的には、これは命を救えるかどうか、人間と機械の間のギャップを埋められるかという問題だ。私たちは将来この瞬間を振り返って、今日行った発表が、交通安全の実現に向けての決定的な瞬間だったと確信することになるだろう」

 Affectivaは、機械学習とコンピュータービジョンを発展させ、人間の感情に対する深い理解を得ることを目標とする人間中心の技術を作るために、2009年にMITメディアラボからスピンアウトした企業であり、そのデータは自動車会社にとって非常に有益なものだ。

 しかし、もし自動車産業に十分な資金があれば、その技術は隣接産業にも急速に広がる可能性が高い。広報担当者によれば、Affectivaは既にメディアアナリティクス事業を立ち上げており、この技術は世界の大手広告会社の70%に使用されているという。Smart Eyeも同様に、人間の行動を理解するためのヒューマンファクター研究に利用されている。この技術が、近い将来ソーシャルロボットの台頭に重要な役割を果たすと想像してもおかしくないだろう。

 Affectivaの共同創業者であり、同社のCEOを務めるRana el Kaliouby博士は、「Affectivaは、次のステップとしてSmart Eyeと合併できたことをうれしく思っている。Smart Eyeと一つになることは、私たちの一方だけでは不可能だった包括的な機能を持つ高度なAIを市場に出すための、他では得られないエキサイティングな機会だ」と述べている。「両社の技術はお互いを補い合うものだが、私たちの価値観、チーム、文化、そしてこれが最も重要な要素だが、私たちの将来に向けてのビジョンもやはり相互補完的なものだ。私たちはいずれも、今作っているAIが、いつの日か世界で普遍的に使われるものになると確信している。その技術は、生活の中で使われる技術に構成要素として組み込まれ、デジタル化された世界で、人間が技術や他の人々とどう接するかを永遠に変えることになるだろう」

 近い将来、あなたが感情を心の内に秘めておこうとしても、AIを使った技術が、その感情を理解してしまう日がやってくるかもしれない。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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