本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日立製作所 執行役会長兼執行役社長兼CEOの東原敏昭氏と、ファイア・アイ 執行役副社長兼CTOの岩間優仁氏の発言を紹介する。
「DXによるビジネスモデルは顧客起点から“価値起点”にシフトしつつある」
(日立製作所 執行役会長兼執行役社長兼CEOの東原敏昭氏)
日立製作所 執行役会長兼執行役社長兼CEOの東原敏昭氏
日立製作所は先頃、機関投資家やアナリスト、報道機関向けに事業戦略を説明する「Hitachi Investor Day 2021」をオンラインで開催した。東原氏の冒頭の発言はその説明会で、DX(デジタルトランスフォーメーション)によるビジネスモデルの在り方について語ったものである。
説明会の最初に登壇した東原氏は、まず経済産業省と東京証券取引所が選定する「DX銘柄2021」の中で同社が「DXグランプリ2021」に選ばれたことについて、「この受賞はLumadaを活用したDX支援ビジネスを展開しているだけでなく、日立が全社的にLumadaをベースとした構造改革を推進していることが高く評価されたものだ」との見方を示した。
改めて、Lumadaとは日立グループの幅広い事業領域で蓄積してきた制御/運用技術(OT:オペレーショナルテクノロジー)と、AI(人工知能)やビッグデータ収集/分析などの情報技術(IT)を組み合わせ、ユーザーにとって最適なソリューションを提供する製品/サービス群のことだ。日立は当初、Lumadaを「IoTプラットフォーム」と呼んでいたが、今ではまさしく「DXプラットフォーム」となっている。
東原氏は、そのLumadaをベースとしたDXによるビジネスモデルの在り方が変わりつつあるのではないかとの見方を示した。どういうことか。
「Lumadaをベースとしたソリューション事業はかねて、お客さまの課題を明確にして共有し、解決策を見いだして対処するという『顧客起点』のビジネスモデルを展開してきた。しかし、最近ではその対象が企業の課題だけでなく、環境や有事の際のレジリエンス(回復力)、安心・安全といった社会課題をいかに解決していくかが重大なテーマになってきている」
さらに、こう続けた。
「そうした社会課題を解決するには、日立単独では限界がある。そこで2020年11月に発表したLumadaアライアンスプログラムによって、多くのステークホルダー、すなわち仲間を呼び込んで共通の価値を創出する一大エコシステムを構築しようと努めている。こうした形のビジネスモデルは、顧客起点ではなく『価値起点』とも言うべきものだ。そう捉えると、DXによるビジネスモデルは今、顧客起点から価値起点にシフトしつつあるのではないかと感じている」
この発言が非常に印象的だったので、冒頭の「明言」として取り上げた次第である。それこそビジネスモデル自体の価値が変わる話だと受け止めたが、さらにこうしたシフトの動きが何を意味しているのか。もっと洞察を深める必要がありそうだ(図1)。
図1:日立の目指すビジネスの姿(出典:日立製作所)