企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが加速することにより、多様なデータが生み出され、企業が抱えるデータは増える一方であり、データ活用は生き残りに不可欠となっています。データは企業の貴重な資産であり、人が活用してこそ経営資源としての価値が高まります。データから価値を生みだす最善の方法は、組織の誰もがデータから力を得ることです。
これを実現させるためには、データを準備、整理し、分析に適した形にモデル化する専門家のデータサイエンティストが必要ですが、その需要の高まりに対して供給が追い付いていません。ある調査によると、企業の6割が必要とするデータサイエンティストの数を確保できていないことが明らかになりました。
しかし、データサイエンティストに頼らなくても、人工知能(AI)などのテクノロジーを導入したツールを利用することで、より多くの人がデータ分析をできるようになります。これを「データの民主化」と呼び、誰もがデータからインサイトを得て、ビジネスの意思決定に役立て、アクションをとることができるようになります。この連載では、データを用いて有益な知見を引き出す「データサイエンス」のアプローチをビジネスマンが使えるようにする「ビジネスサイエンス」という考え方について、数回にわたりご紹介します。
第1回は、データ分析をビジネスに生かすために、どういったことが課題になっており、どのようなことが求められているのか、そして、データサイエンスの例を取り上げます。
データサイエンティストの不足
企業経営におけるデータの重要性が毎日のようにうたわれており、データを活用して作業効率・プロセスの向上、顧客体験の改善、品質向上など、さまざまなことが可能になることは広く認識されています。しかし、企業データを収集し、時には商業データを購買したり、オープンデータをそろえたりしても、いざデータを活用する段階になると、企業は多くの課題に直面することになります。
事業や業務にデータ分析の結果を反映するためには、まずビジネスの状況や課題を把握し、それらに必要なデータを収集し、科学的な見地から分析します。こうすることで、ビジネスに有効な示唆を与えることができます。このような企業における意思決定をサポートする役割を担うのが「データサイエンティスト」と言われています。データサイエンティストは、高度な統計および機械学習に関する知識を持つとともに、業界に関する深い知識やビジネスに対する戦略的な思考を備えています。分析結果を提供するだけではなく、分析結果をビジネスにどう適用するかの方法についても関わるようになっています。
データサイエンティスト協会の調査によると、データサイエンティストが在籍している企業は3割に満たず、データサイエンティストの採用を予定していた企業の6割近くが目標とする採用人数を確保できていません。データサイエンティストを抱えている企業はまだ少数に過ぎず、さらにその人数を増やしたいと考えている企業にとっても採用が難しいという状況にあります。データサイエンティストの人材不足は、企業におけるデータ活用を進める上で一つの障壁となっています。
しかし、組織にデータサイエンティストがいなくても、データ活用はさまざまなレベルで可能です。新型コロナウイルス感染症の対策を例にとると、専門家はデータや科学的な見地から感染症の流行を予測し、政府に対して技術的なアドバイスをし、政策立案に役立てられています。政治家ではない私たちは、パンデミックへの対策として、人流、人の移動データや電車や店舗の混雑状況などのデータを確認して、その日の行動を決定するのに役立てることができます。
組織においても同様であり、営業担当者、サポートサービス担当者、オペレーション担当、役員など、それぞれ役割に合ったデータ活用・分析により、それぞれに必要な意思決定に生かすことが可能となります。