2018年に経済産業省の「DXレポート」で提起された「2025年の崖」をきっかけに、SAP ERP(統合基幹業務システム)をS/4HANAへ更改する企業が増える中、SAPがERPの“先の姿”を具体化しつつある。それは何か――。SAP アジア太平洋・日本地域プレジデントのPaul Marriott氏に、顧客の現状やERPのサポート、次なるビジネスとITの姿などを尋ねた。
日本も「パッケージで標準化」を受け入れる
Marriott氏によると、SAPの日本での事業規模は直近5年で約2倍になり、「健全な成長を続けている」という。その理由は、パッケージソフトでビジネスプロセスを標準化するという、日本企業の変化だとする。日本企業は、長らくERPパッケージなどを標準構成に近い形で利用するより、自社の業務スタイルに合わせて膨大なカスタマイズを加えて利用した。
ただ、コロナ禍まで拡大する一方の世界経済の中で、日本企業の存在感は相対的に低下し、その遠因の一端に、業務システムなどの“ガラパゴス化”がある。もちろん海外市場の売り上げ比率が50%を超える日本企業は少なくないが、国内中心のビジネスで十分という感覚の企業は多いだろう。Marriott氏は、「オンプレミスにカスタマイズでシステムを開発、構築することは、基本的にグローバルを考えなくていい方法だったと思う」と話す。
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SAP アジア太平洋・日本地域プレジデントのPaul Marriott氏
しかし、従来のやり方を続けるビジネスで成長を期待しづらい。海外に商機を求める企業がある中、コロナ禍の到来で多くの企業が危機感を強め、変化に乗り出した。「コロナ禍でSAPが関与するDX(デジタル変革)プロジェクトは2倍に増えた」とMarriott氏。
「SAPはグローバルのベストプラクティス、つまり、標準化されたビジネスプロセスを、パッケージ化したソフトウェアで実践するメリットを提案してきた。SAPのプラットフォームは柔軟性が高く、ローカル市場の多様な要件や固有の規制、言語などに対応し、顧客の求める機能追加も容易な拡張性を備える」
「日本企業はオンプレミスにカスタマイズでシステムを構築することから脱却し始めた。SAPのソフトウェアパッケージ、プラットフォームで標準化し、クラウドを活用して革新性、俊敏性を手に入れる。こうした変化によりSAPのビジネスも成長している。まだ数千社がカスタマイズ文化の中にとどまっているが、SAPは変化への対応を手伝うことができると思う」とも述べる。