SAPは6月2日、年次カンファレンス「SAPPHIRE Now 2021」をオンラインでスタートさせた。2020年にCEO(最高経営責任者)に就任したChristian Klein氏は、同年のSAPPHIREで気候変動対策に向けたアプローチを打ち出し、その後「RISE with SAP」を発表、そして迎えた今回のイベントで「われわれの次の戦略」として「SAP Business Network」を打ち出した。
SAP CEOのChristian Klein氏
SAP Aribaなど3製品を統合、世界最大のビジネスネットワークに
Klein氏は冒頭、コロナ禍で露呈した重要なものに、(1)技術を利用し自社のビジネスプロセスを変革できる弾力性が必要なこと、(2)ビジネスはコミュニティーとして成功すること、(3)気候変動にアクションを起こすサステナビリティーへの意識の高まり――の3つを挙げた。SAPは3つそれぞれに対して、(1)ではインテリジェントエンタープライズ、(2)ではビジネスネットワーク、(3)サステナビリティー――をソリューションとして提供する。
このうち(2)のビジネスネットワークについてSAPは、2012年に買収したAribaで企業間取引のネットワークを運営してきた。SAP Aribaは190カ国以上の410万社以上が参加する世界最大の購買・調達ネットワークだが、今回はこれに物流ネットワークの「SAP Logistics Business Network」、設備資産管理の「SAP Asset Intelligence Network」を融合し、「SAP Business Network」という統合ソリューションを発表した。「550万社がつながる世界最大のビジネスネットワーク」(Klein氏)
「多くの企業がグローバルなサプライチェーンに依存しているため、コロナ禍で問題に直面した」とKlein氏は指摘する。実際にコロナ禍でサプライチェーンが何らかの影響を受けたという企業は75%に上るという。このところ世界的な課題となっている半導体不足も、「当初はコロナ禍の需要減のために発注が減り製造が減ったが、その後の急激な需要増に対してサプライヤーや製造側が十分なリードタイムを確保できず、供給対応できないことに起因している」と分析した。
現在のサプライヤー、バイヤー、物流、製造などの複雑なビジネスネットワークは、それぞれが1つとしてつながっているが、Klein氏はこれがソーシャルネットワークのように相互接続する必要があると提起する。「サプライチェーン全体でリアルタイムな透明性が必要だ」と続けた。これにより、コロナ禍のような突発的な事態にもリアルタイムに対応できるという。実際に農業ビジネスを手掛けるアラブ首長国連邦のAl Dahlaは、コロナ禍で出荷に遅れが出るなどの問題に直面したが、Aribaを利用して、3日で140のサプライヤーを見つけることができ、影響を最小限に押さられたという。
SAP Business Networkは、単一のポータルからサプライチェーンのエコシステム、物流、トレーサビリティーなどを把握できる。デモンストレーションでは、ハイテクコンシューマー企業がサステナブルな製品群をローンチするに当たり、環境に配慮したパッケージサプライヤーを探したり、発注後に請求書を承認したりするなどのプロセスをスムーズに行なった。配送状況をリアルタイムに追跡したり、物流過程のCO2排出量を把握したりできるという。
「SAP Business Network」のダッシュボード
フィルター機能を使ってサプライヤーを絞り込むこともできる
物流を統合することでサプライヤーの配送状況も追跡できる
SAPの戦略の中心はあくまでインテリジェントエンタープライズにある。Klein氏は、「ビジネスはグローバル化しており、インテリジェントエンタープライズを実現するだけでは不十分」とも述べ、SAP Business Networkを同社の「次の戦略」と位置付けた。