SAPが2021年に提供開始した「RISE with SAP」と呼ぶ企業向けデジタルトランスフォーメーション(DX)支援サービスの展開に注力している。果たして「立ち上がり(RISE)」はどうか。ドイツ本社CEO(最高経営責任者)のChristian Klein(クリスチャン・クライン)氏と、SAPジャパン バイスプレジデントの平石和丸氏が語った手応え、そして課題とは――。
SAPが提唱する「インテリジェントエンタープライズ」とは
「新型コロナウイルスの感染拡大とデジタル化の進展によって、多くの企業がビジネスモデルの転換に迫られている。むしろ、こういう機会だからこそDXに果敢に取り組み、ビジネスモデルの創出や転換に挑む企業も少なくない。そうした企業のあるべき姿として、私たちは『インテリジェントエンタープライズ』というビジョンを打ち出し、これを実現するオファリングサービス群としてRISE with SAPの提供を始めた。これによって、多くの企業のビジネス変革を支援していきたい」
「SAPPHIRE NOW 2021」の基調講演でスピーチを行うSAP CEOのChristian Klein氏
SAPのKlein氏は6月2日、同社がオンラインで開催した年次イベント「SAPPHIRE NOW 2021」の基調講演で、同社の新たなビジネス戦略であるインテリジェントエンタープライズやRISE with SAPについてこのように説明した。今回は同イベントに伴って、Klein氏の記者会見やSAPジャパンによる補足の会見も行われたので、SAPのビジネス戦略の最新事情について探ってみたい。
まずは、インテリジェントエンタープライズというビジョンがこの話の基になるので、おさらいしておこう。
SAPでは、これからのエンタープライズITの在り方を見据えたDXのビジョンとしてインテリジェントエンタープライズを提唱している。図1に示したのが、その全体像である。
図1:インテリジェントエンタープライズの全体像(出典:SAPジャパン)
図1の見方を大まかに紹介しておくと、下から「テクノロジー」「アプリケーション」「ビジネスプロセス」と大きく3層に分かれており、テクノロジー層の「ビジネステクノロジープラットフォーム」は、「データベース」「アナリティクス」「アプリケーション開発」「人工知能(AI)などのインテリジェントテクノロジー」といった4つの要素で構成されている。
また、アプリケーション層の「インテリジェントスイート」は業務別クラウドアプリケーション、「インダストリークラウド」は業種別ソリューションをクラウド展開していく。さらにビジネスプロセス層については、「ビジネスネットワーク」と記されている外部環境とSAPのアプリケーションを連携させて利用できるようにする役割を担う。
つまりは、「AIなどの最新技術を活用し、ERP(統合基幹業務システム)に代表されるアプリケーションはクラウド化を進め、外部とも柔軟に連携可能なデジタル利用環境」といったところか。
このインテリジェントエンタープライズについて、SAPジャパンが会見で興味深い図を示していたので紹介しておこう。図2がそれである。SAPはインテリジェントエンタープライズについて、「AIなどの最新技術によって働く人間がより価値の高い成果に集中できる企業の在り方」とも説明しており、この図がその「進化」を表している。そう捉えると、インテリジェントエンタープライズは「DXの先」の姿ということのようだ。
図2:インテリジェントエンタープライズへの進化の過程(出典:SAPジャパン)