人工知能(AI)や機械学習には強力な処理能力と大規模なデータストレージが必要であるため、クラウドが利用されることが多くなっている。そのことが、少数の大手クラウド企業がAIのアプリケーションやプラットフォームの分野を牛耳ってしまうのではないかという恐れを生じさせている。今後は、大手IT企業がAI業界の趨勢を掌握し、企業の選択肢は減っていってしまう流れになるのだろうか。
AIの専門家は、いくつか警戒すべき点があるとしながらも、必ずしもそうなるとは限らないと述べている。ただし、大手クラウドプロバイダーが、いくつかの観点からAI業界の趨勢をコントロールできる立場にあることは間違いない。
この結論は、ニューヨーク大学スターン経営大学院のCenter for the Future of Managementとミュンヘン大学のInstitute for Strategy, Technology, and Organaizationが最近開催したウェブキャストで交わされた議論の一部だ。このウェブキャストには、マサチューセッツ工科大学(MIT)のDaron Acemoglu教授、ソルベイブリュッセル経済経営大学院のJacques Bughin教授、ハーバードビジネススクールのRaffaella Sadun教授が参加した。
AIにはクラウド以外の要素もある。AIアプリケーションは複雑で多様性が高く、AIを実行するクラウド環境さえあればいいというものではない。そのことが、一握りの大手クラウド事業者による支配を弱めている。
Bughin氏によれば、「AIには、今後さらに多くのストレージと、さらに強力な情報のフローを扱える能力が必要とされるようになる」という。しかし同氏は、「(それと同時に)、クラウドはプラットフォーム全体の一部分にすぎない。クラウドはインフラの一部ではあるが、プラットフォーム層には企業の社内で開発されているものや、サードパーティーを通じて提供されているものも含まれている。これらを統合した全体像は、今後ハイブリッド化が進み、クラウド自体よりも重要になっていく。明らかなのは、重要なのは運用ではないということだ。重要なのはさまざまなアルゴリズムであり、さまざまなデータであり、それらを統合したものだ。それにはシステムの統合と、アーキテクチャーと、設計が必要であり、その作業にはさまざまな種類の企業が関わることになる」とも述べている。
それよりもBughin氏が懸念しているのは、大企業が合併・買収(M&A)によって小規模な企業やスタートアップを飲み込んでいき、AIスタートアップのイノベーションの可能性がつぶされてしまうのではないかということだ。「大手のインターネット企業やAI企業が、多くの非常に小規模なAI企業や非常に賢いAI企業を買収していくだろう」と同氏は話した。