今、サプライチェーンのリスクマネジメントを見直し、強化しようという機運が、企業の間で急速に高まっています。本連載においては、その背景から具体的なサプライチェーン強靭化のアクション、そして未来の展望までをご説明したいと思います。
危機管理ソリューションを提供するSpecteeにおいて、サプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)に課題感を持つ顧客が増加していることを受け、2021年末にアンケートによる意識調査を実施しました。下記がその結果となります。
6割を超える回答者が、SCRMの重要性が今後「とても上がると思う」「ある程度上がると思う」と回答しています。連載第1回では、この背景にどのような事情があるのかについて解説したいと思います。
なぜ今SCRMの重要性が増しているのでしょうか。それは「近年特にサプライチェーンの脆弱性が顕在化したから」と言うことができます。日本や世界で実感される自然災害の増加、そして人類を襲った新型コロナウイルス感染症によるパンデミック、中国の覇権主義的動きやロシアのウクライナ侵攻をはじめとする国際情勢、そしてその他にもサプライチェーンを覆うリスクは多様化・複雑化しており、まさに「想定外の時代」に突入した感があります。
それら背景をひとつずつ見ていきます。
気候変動・気候危機
地球温暖化や気候変動に関する科学的分析をとりまとめる、国際連合(国連)の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2021年8月9日、最新となる第6次報告書を発表しました。本報告書では幾つかのシナリオに基づいたシミュレーションを行われていますが、どのシナリオに沿ったとしても、少なくとも今世紀半ばまでは世界平均気温は上昇を続けるとしています。今後数十年で二酸化炭素(CO2)を筆頭とした温室効果ガスの排出が大幅に削減されない限り、21世紀中に気温が産業革命前と比べて2度以上上昇してしまいます。
こうした地球温暖化は、気候システム全体に大きな変化を及ぼします。世界中で極端な高温や熱波、大雨や干ばつなど、自然災害がより多発化・激甚化することが予想されます。
日本では、ゲリラ豪雨と呼ばれるような短時間で強く降る雨が増加していることが科学的に確認されており、2022年の夏も各地で水害や土砂崩れが発生しました。世界を見渡しても、パキスタンの国土の3分の1を冠水させるような記録的な洪水をはじめとして、世界各地で多くの被害が生じています。また、災害による直接的な被害にとどまらず、気温上昇による海面の上昇や生態系の変化は農業・漁業に甚大な影響を及ぼし、格差の拡大や社会の不安定化に拍車をかけるでしょう。