Microsoftの初代「Surface RT」タブレットは、ハードウェアの発表としては、まれに見る大きなサプライズだった。このArmベースのタブレットが登場したのは、Appleの「iPad」発売からわずか2年後のことだ。南カリフォルニアで開催されたそのドラマチックな発表イベントは、筆者がそれまで見たことがなかったほど、IT業界の報道陣を驚かせた。
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ただ悲しいことに、初代Surfaceは「少なすぎ、遅すぎる」の典型例だった。あるいは、早すぎたのかもしれない。そのハードウェア技術の冴えは見事だったものの、エコシステムは最初から望み薄で、アプリ不足と「Windows 8」の間に合わせのインターフェースは残念だった。Microsoftはこの製品で巨額の損失を出し、評判を取り戻すのに何年もかかった。
普通なら、Armプロセッサー版のWindowsは、もうこりごりだと思うはずだ。
しかし、どうやらそうでもないのかもしれない。前最高経営責任者(CEO)のSteve Ballmer氏は、Microsoftの競争に対するアプローチについて、「長期的で、粘り強く、パートナー中心主義だ。(中略)私たちは後戻りはしない。ただひたすらに前に進み続ける。粘り強く、粘り強く、粘り強く」と誇らしげに説明していたものだ。
筆者は、米連邦取引委員会(FTC)がMicrosoftのActivision Blizzard買収を阻止しようとして行った手続きの中で不注意にも公になってしまったMicrosoftの社外秘文書を読んで、その発言を思い起こした。その文書の中では、Microsoftの経営陣が、AppleやAmazonやGoogleとの競争における「カスタムチップ」開発の必要性について膨大な時間とエネルギーを費やして議論していた。
次の部分を読めばそれがよく理解できる。
半導体の技術革新を続けることが、クラウドサービスやデバイスの競争力を確保するための鍵だ。サーバーチップ「Graviton」を持つAWS、「TPU」を持つGCP、Mシリーズを持つAppleをはじめとする競合企業が、カスタムチップがエコシステムの差別化に繋がることを証明している。当社の優先事項は、AzureとWindowsの競争力を、個別にではなく全体として維持することだ。そのため、当社のロードマップでは、アプリケーション、ミドルウェア、インフラ、シリコンを包含する、エンドツーエンドシステムのアプローチを採用する。私たちは、当社のクラウドとクライアント、ゲーミング、AIの事業規模を活かして、最近の半導体技術革命を最大限に活用していく。それにより、エッジからクラウドまであらゆる領域で半導体に関する知的財産を再利用し、当社の半導体に関する知的財産と、サードパーティーサプライヤーの知的財産を組み合わせることが可能になる。