Salesforceは、9月に米国で開催した年次イベント「Dreamforce」において、「Einstein 1 Platform」などAIへの取り組みを加速させることを発表した。2024年前半にかけて各種SaaSで生成AI機能を順次投入していくという。同社の代表的なSaaSである営業向けの「Sales Cloud」とサービス向けの「Service Cloud」の開発担当者に展開などを聞いた。
生成AIは現場業務とデータ品質の向上に
Sales Cloudの開発をリードするプロダクトマネージメント シニアバイスプレジデントのMaryAnn Patel氏は、同サービスの状況について、「Marc(共同創業者 会長 兼 CEO Marc Benioff氏)の掲げる『AI+データ+CRM』のビジョンがユーザーに受け入れられており、Sales Cloudのビジネスはとても順調に伸びている。Sales Cloudは、営業活動におけるあらゆるプロセスをカバーしており、ユーザーと(ユーザーにとっての)顧客をつなぎ、両者の関係性をより深めていく役割になっている」と述べる。
Salesforce Sales Cloud担当プロダクトマネージメント シニアバイスプレジデントのMaryAnn Patel氏
Sales Cloudは、顧客との営業取引全体を管理し、各種のデータを用いて見込み客の開拓や既存顧客との取引拡大のためのさまざまな予測、シナリオ、アクションのプランなどを提示する。AIの活用とその効果を把握しやすいサービスの一つになる。
Patel氏は、Dreamforceで発表したSales Cloudの方向性について、(1)営業担当者と営業組織のパフォーマンス向上を目指す管理者のデータ活用をAIで支援、(2)「Salesforce Data Cloud」を生かした営業チームの組成や制約確度を高める予測の実現、(3)営業プロセスでのインテリジェンスを用いた営業計画の実行支援――の3つになると説明する。
「Sales Cloudは、2016年に発表した(CRM向けAIの)『Einstein』を最初から実装しているサービスの1つになる。現在は、膨大なデータを基にEinsteinが毎日数億件の予測をユーザーに提示している。既にAI活用が定着しており、これに生成AIを加えることで、ユーザーの力をより引き出すことができるようになると考えている」(Patel氏)
Patel氏によれば、現在では営業実績などの多様なデータからEinsteinが商談の成約率を高めるためのシナリオやアクションのプランをユーザーに提示し、営業担当者の生産性が29%向上しているという。生成AIは、顧客情報の分析や提案内容の作成、取引内容や商談実績などのデータ入力といった営業担当者のさまざまな業務を支援する役割になるという。
一例では、2024年2月以降に「Sales Email」と「Call Summaries」の提供を予定する。Sales Emailは、CRMデータを基に営業担当者が生成AIを使って、顧客に応じた内容のメールを自動的に作成したり、メールのやりとりから商談スケジュールをカレンダーに自動登録したりできる。Call Summariesは、顧客との電話やウェブ会議の内容をAIが自動的に要約することに加え、会話から顧客の感情も分析(センチメント分析)して、営業組織で共有したり、担当者が次に取るべきアクションを提案したりできる。まず日本語を含む16言語に対応する。
Patel氏は、Salesforceにおける生成AIの役割を「copilot」と表現する。日本語で「副操縦士」などと訳されるが、物事を推進する主体者を支援する役割といった意味合いになる。「人間がCRM(顧客との関係性を深めるとの意味で)をドライブさせなければならない状況から生成AIがそのドライブをサポートしていくことを目指している。生成AIにより営業担当者の業務を1週間当たり十数時間節減できると考えている」と述べる。
Einsteinなどに生成AIも加わり、ユーザーはCRMデータとAIをより駆使できるようになることが期待されるという。他方で、AIを使いこなすスキルの獲得や、AIの精度向上のためにより正確なデータ入力なども求められるようになるだろう。
Patel氏によれば、現在のSales Cloudのユーザーは、大企業、中堅企業、小規模企業の割合がそれぞれ約3分の1とのこと。「多様なユーザーがSales Cloudを利用し、われわれはユーザーに使いこなしていただくための機能開発に注力している。Salesforce自身やユーザーのベストプラクティスを共有し、ユーザーに提供している」としたほか、「Einsteinの予測がとても多く複雑でユーザーが使いこなしにくいという課題も認識している。私はEinsteinをSalesforceに実装した2016年からこの課題の解決に取り組んでおり、なぜEinsteinがそのプランを提案したのかという理由を分かりやすくしたり、予測モデルを改善したりすることで、ユーザーに『Next Best Action』をしっかり提示したいと考えている」とも話す。
生成AIを加えたことで、今後は生成AIがユーザーの“copilot”となり、営業担当者と営業組織のリーダーのさらなる生産性向上を支援していくという。