AI活用の業務改善を成功に導く、「AIマネジメント人材」と求められる要素とは

横山亮、大橋大介 (クニエ)

2024-01-30 07:00

はじめに

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれて久しい昨今において、多くの企業が業務改善に取り組んでいる。一口にDXによる業務改善と言っても複数のアプローチが存在する。例えば、「過去の販売実績を可視化し、ユーザーがデータを見ながら発注量の判断をするアプローチ」「AIによる需要予測結果を基にユーザーが発注量の判断をするアプローチ」などがある。

 前者と後者のアプローチは大きく異なる。前者は既存の情報技術を活用することで構築可能であるが、後者はデータサイエンスの力が必要となる。本稿では、後者、つまりデータサイエンスの力を用いた「AIによる業務改善」を成功に導くための、「AIマネジメント人材と求められる要素」について述べる。

AIによる業務改善プロジェクト特有の障壁・課題

 多くの文献で、「AIによる業務改善」を成功させるためのポイントとして、「目的・ゴールの設定」「データ整備」「検証プロセスの設定」などが挙げられている。

  • 目的・ゴールの設定:解決すべき業務課題を定め、ステークホルダーと合意する
  • データ整備:分析する上で必要なデータを整備する
  • 検証プロセスの設定:本番導入の前に行う概念実証(PoC)のプロセスや重要業績指標(KPI)を定める

 しかし、上記を達成すれば、業務へのAI導入がスムーズに進むかと言えば、実はそうではない。一般的なITシステム導入による業務改善と、AI導入による業務改善との間には大きな違いが存在する。それは「登場人物」の違いである。

 一般的なITシステム導入では、ITシステムを使って業務を行うユーザー(業務ユーザー)、ITシステムを開発するメンバー(システムエンジニア)が登場する。プロジェクトの流れとしては、システムエンジニアが業務ユーザーの要望をヒアリングし、システム要件に落とし込む。コスト面も含めて、合意が取れれば、システム要件に従って、システムエンジニアがシステム構築を行う。そして、業務ユーザーが業務要件を満たしているかを確認する。

 一方、AI導入では、業務ユーザー、システムエンジニアに加え、AIの専門家であるデータサイエンティストが登場する。プロジェクトの流れは、まずデータサイエンティストが、業務ユーザーの要望をヒアリングしてAIモデル要件に落とし込み、その要件に従いAIモデルを構築する。その後、PoCフェーズで、AIモデルの精度や運用可能かを業務ユーザーも含め確認する。

 そしてAIモデルにある程度目途がついたら、システム開発フェーズに移行する。システムエンジニアがデータサイエンティストにAIモデル要件をヒアリングし、システム要件に落とし込み、構築を行う。構築したシステムについては“意図した通りの精度が出ているか”をデータサイエンティストが、“業務要件を満たしているか”を業務ユーザーが確認する(図1)。

図1:ITシステム導入とAI導入の違い
図1:ITシステム導入とAI導入の違い

 このように、AIの業務導入は登場人物が増えることでプロセスが複雑になる。その結果、要望・要件に矛盾が生じやすく、これがAIの業務導入における特有の障壁となる。

 また、業務/データサイエンス/システムエンジニアリングに関する知識について、3者が保有しているレベルはそれぞれ異なるため、使っている言語も思考も違うと考えた方が良い(図2)。

 業務ユーザーは「いかに業務を完璧かつ円滑に進めるか」、データサイエンティストは「いかにAIの精度を上げるか」、システムエンジニアは「いかにシステムを安定稼働させられるか」を考えており、それらが矛盾する要望・要件につながってしまうのである。

図2:登場人物の役割と知識レベル
図2:登場人物の役割と知識レベル

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