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技術者のおもちゃから重要な社会基盤に 国内ベンダーのトップが語るOSSの四半世紀とこれから SRA OSS稲葉氏×ベリサーブ武田氏対談

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2023-03-13 13:00

ITの普及に大きな役割を果たしてきた、オープンソースソフトウェア(OSS)。当初は“ソースコードが公開された無料で使えるソフト=信頼性がないもの”とみなされ、知識や興味を持つ特定の技術者だけが扱える特別な存在であったが、登場から四半世紀を経た今ではソフトウェアの大半がOSSとなり、OSからミドルウェアに至るまで、エンタープライズやエンベデッドシステムの構築に欠かせない重要なIT基盤になっている。そしてそれに至る過程には、コミュニティやOSSをサポートするITベンダーの数えきれない挑戦と貢献、苦労や思惑があった。今回、OSS黎明期から当該ビジネスに携わり、オープンソース・データベース(DB)製品であるPostgreSQLのエバンジェリストとして業界団体やコミュニティ活動に注力し、昨年SRA OSSの社長に就任した稲葉香理氏と、かつてSRAで同時期にOSSビジネスに携わり、その知見を活かして国内組織のセキュリティ対策を支援してきたベリサーブ ソリューション事業部 マーケティング部長の武田一城氏が、OSSのこれまでとこれからについて語り合った。

LinuxWorld開催を機に始まったSRAのOSSビジネス

武田氏:稲葉さんはSRA入社当初からOSSに携わっていたんでしたっけ?

稲葉氏:そうですね。私は1998年入社ですが、以前からSRAはUNIX系のフリーソフトウェアを開発するGNUプロジェクトへR&D的に人を派遣していて、ビジネスで一部OSSを扱っていたんです。

武田氏:98-99年頃にはHP-UXをはじめ多くのサーバーOS製品が登場していて、UNIX全盛期でしたよね。

SRA OSS 社長 稲葉香理氏
SRA OSS
社長 稲葉香理氏

稲葉氏:そうですね。そして、その時期はLinuxの出始めの時期でもありました。それまでOSSチームはR&D部門的な立ち位置だったのですが、1999年3月にLinuxWorld Conference Japan’99という日本で初めてのLinuxイベントが開催されて出展したら、「OSSがビジネスになるのでは?」という機運が社内で高まり、99年に専任部署が立ち上がりました。そのメンバーに私も含まれていました。その後、日本のPostgreSQLのパイオニアとなった石井(達夫氏=現SRA OSS顧問)と一緒にPostgreSQLをやれと。

武田氏:LinuxWorldの開催が、その後OSSが拡大していくきっかけになりましたよね。基調講演でLinuxの産みの親であるリーナス・トーバルスが登壇し、しっかりとメッセージを発したことが象徴的でした。

稲葉氏:私も、それがきっかけとなって、世の中でオープンソースソフトウェアという言葉自体も浸透したと感じました。それ以前は“フリーソフトウェア”という言葉で、ごく限られた技術者のものという印象でした。

当時はJavaもOSS扱いだった

武田氏:私が気づいた時は、SRAはOSSの総本山的な位置づけになっていたのですが、どういう経緯でSRAはOSSに詳しいベンダーという立ち位置になったんですか?確かにUNIXには強かったけど、国産LinuxディストリビューションのTurboLinuxも子会社でしたが、OSSに強いイメージの認知が先で、後から付いてきた感じでしたし。

稲葉氏:経緯としては、いくつもあったのですが、結局のところUNIXを早く導入していたことと、OSSの先輩ともいえるGNUプロジェクトを支援していて、OSSを使う意識が普通にあったからの2点ですかね。そのときにLinux OS、PostgreSQL、Javaなどいくつかのチームを集めてOSSビジネスをやろうという事になったんです。

武田氏:確かにその当時は、なぜかJavaもOSSと言われていましたね。Linuxディストリビューションに含まれていたのが理由でしょうけども。では、そのような市場環境の中でSRAのOSSビジネスが拡大していった経緯は?

稲葉氏:現在もそうなのですが、当時もPostgreSQLが中心でしたね。やはりDBは大事なところで使われるので、ビジネスにつながりやすかったのです。そこからWebシステムのバックエンドのApache HTTP ServerやTomcatといったミドルウェアとの組み合わせが一般化したことで、市場の拡大に引っ張られる形で売上を伸ばしていきました。

ベリサーブ ソリューション事業部 マーケティング部長 武田一城氏
ベリサーブ
ソリューション事業部
マーケティング部長 武田一城氏

武田氏:Oracleの特に保守料金が高額だからPostgreSQLを使いましょうというコスト削減のためのマイグレーションの時代が長かったですが、現在はDBとしてのPostgreSQL自体が評価されてシェアが伸びている状況ですか?

稲葉氏:新規でPostgreSQLが採用されるケースが増えている印象ですが、商用DBベンダーの保守料の段階的な値上げや、近年の円安からの製品価格上昇などもあり、マイグレーション需要は継続的にありますね。

武田氏:それでは、そのような市場環境において、SRA OSSはどうPostgreSQLに貢献し、事業を成長させてきたのですか?

稲葉氏:PostgreSQLはUNIX系OS向けに開発されていたのですが、SRAが2003年にWindowsで動くPostgreSQLをベースにしたDB製品のPowerGresを販売したんです。当時のPostgreSQLはUNIX系OSでしか動作しなかったので、どうしても市場が制限されていたんです。そのため、手軽なWindowsで利用することで市場のすそ野が広がりました。また、それを数年後PostgreSQL開発コミュニティに寄贈したことも大きかったと思います。これによってPostgreSQLもWindowsで動くようになり、市場を広げることができたと認識しています。

武田氏:同じOSSDBというと、当時はMySQLの方が注目されていましたよね。

稲葉氏:そうですね。PostgreSQLは常にマイノリティというか弱者の立場でした。そのため、2000年代前半は、Oracleを含めたDBの星取表を毎年作っていましたね。MySQLの方がレプリケーション機能を標準機能として搭載したのが早くて、PostgreSQLは分が悪いなと思っていた時期も正直ありました。当時はコミュニティのコアメンバーがいろいろな方式があるものなのでサードパーティーで実現したほうが良い思っていたようです。DBの導入しやすさに関わる機能なので、このことで当時は3-4年ほど遅れを取ってしまったと感じていました。その後、MySQL社がSun Microsystemsを経てOracleに吸収されたことで、一部のユーザーが離れました。PostgreSQL側では日本の技術者がレプリケーション機能を実装してくれたことや着実に機能を実装していったことで業務システム分野を中心に盛り返すことができました。

おもちゃ扱いされていたOSSが社会的に認知されていった2000年代後半

武田氏:社会的にOSSが普及したと感じた瞬間について聞きたいのですが、1990年代後半~2000年初頭はLinuxやOSSは正直おもちゃ扱いをされていたと思います。それが徐々にWeb系だったら使えるねという話になり、2000年代半ばにはそれなりの市民権を得るようになったと認識しています。具体的には、ドットコムバブルを生き抜いた企業のいくつかが1日で何億円も稼ぐようになった。そのタイミングで個人的には「OSSは勝った(市民権を得た)」という感覚があったのですが(笑)、稲葉さんはどういう風に感じていましたか?

稲葉氏:私の場合は、それほど明確にはありませんでした。ただ、確かに当初OSSはおもちゃ扱いで、Webシステム自体がそれほど重要でない領域だったら使ってもいいという風潮でしたよね。2000年代になると米国でもPostgreSQLをエンタープライズ用のDBとして提供する専業の会社も立ち上がり、SRAも2005年にSRA OSSを設立しました。このようなベンダーのサポート体制が整っていったことで、その後重要なシステムで使う先進ユーザーが少しずつ国内でも出始めてきたと記憶しています。

武田氏:国内でも社会の重要インフラ系で採用されるケースが出始めましたね。例えば中国電力などはOSSを積極的に導入する印象が強いです。

稲葉氏:PostgreSQLでいうと2009年にイベントで、当時NTTのオープンソースソフトウェアセンタ長だった木原誠司さんが自社にあるDBの80%をPostgreSQLに置き換えられるという話をされ、実際にかなりPostgreSQL化が進んでいました。そのメッセージは非常に大きかったですね。2000年代後半からは、ミッションクリティカルや大きなシステムでも使われるようになってきた実感があります。

稲葉氏:ちなみに2008年からは、LinuxWorldはOSS全般のイベントになったんですね。それがLinuxを利用することが当然の世の中になったことを示す象徴的な出来事だったと思っています。2010年代になると、クラウドが注目されてOSSがどんどんシステムの中で部品化していったので、多分その辺りがターニングポイントだった気がします。

武田氏:2010年代になると、GAFAがOSSを使ってイノベーションを起こすという成功事例を出してきて、オープンソースを使う事が今のDXのようなブームになった印象ですね。それによって経営層にも届き、OSSを活用する名物CIOが何人か出てきて、OSSを使う事がビジネスインパクトにつながりました。ただ、日本のIT系のブームはいつも手段が目的化する傾向があって、効果を発揮するまでに至らない状況も散見されましたけども(笑)

稲葉氏:そうですね。ただ、それが実現するまでにかなり時間がかかりましたね。そのような市場動向になるまでは、なかなかOSS活用の本質がお客様に伝わらなかった。なので私自身も、それにもどかしさもあり技術からマーケに転身したという経緯もあります。

武田氏:私はその当時、プリセールス兼営業のような感じでしたが、その頃大変だったのが、OSS好きな人は大抵権限がないということ。やたら呼ばれるんですが、本当に仕事にならない(笑)

稲葉氏:それは言えるかも(笑)。OSSに限らず、先進的な技術が好きな人はあまりビジネスサイドの人ではない印象です。それが2010年くらいになってくると、経営のトップが戦略的にOSSを使うと言い出す会社が増えた。これによって、OSSのビジネスが成長した側面があると思います。

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