トヨタユーゼックの新基幹系システム「TOM@S」

日川佳三(編集部)

2005-05-31 19:15

データ入力行程を現場に最適化
処理量に合わせた能力を都度調達

  1. 中古自動車のオークション業務を効率化するシステムを刷新
  2. データ入力業務の一元化によりデータ数のバラつきに対応
  3. ブレードサーバとMetaFrame使い業務ユーザーの増加に対応
4月9日にオープンしたトヨタユーゼックの横浜会場

 人件費の無駄を抑えつつビジネスを拡大する--。業者向けに中古自動車のオークション事業を手がけるトヨタユーゼック(千葉市美浜区)の命題である。オークション事業は、取り扱う自動車の台数を増やす戦略が重要。執行役員の内山厚一情報システム部長は4月9日、取り扱う台数を増やしてもデータ管理の負荷を極力増やさないシステム「TOM@S」(TAA On Demand MAnagement system)を稼動させた。

システム構築の責任者であるトヨタユーゼック 執行役員 情報システム部長の内山厚一氏

 オークション会場は全国で6カ所。従来は、個々の会場が取り扱う中古自動車のデータベースを、個々の会場ごとに独立して管理していた。これを、4月9日に新規にオープンさせた横浜会場を皮切りに、データベースを一元集中化する新システムへ移行させる。新システムは開発と運用のアウトソーシング先であるNECのデータセンターに設置した。

 新システムの狙いは大きく3つある。(1)取り扱う中古自動車のデータを入力する業務を効率化させることで、出品台数のバラつきによる人件費の無駄を排除すること。(2)中古自動車のデータベースを全会場で一元化して会員情報を共有することにより、顧客サービスを向上させるとともに営業戦術に生かすこと。(3)ブレードサーバと画面情報端末を同時に採用することで、システム移行とビジネスの拡大に伴う業務クライアントの増加に順応すること。

トヨタユーゼックが抱えていた課題と、課題解決のための方策(クリックすると拡大します)

 データ入力の効率化は、TOM@Sで最も工夫した点であるとともに、最も苦労した点でもある。オークションの対象、すなわち出品者が持ち込む中古自動車のデータを入力する画面の開発では、「数カ月のフィールド実験を経て工夫に工夫を重ねた」(オークション業務部総括業務室副室長の千原朝明氏)。一方、データ入力時に参照する中古自動車の出品伝票画像の撮影では、撮影時間帯による露出のバラつきに悩まされた。開発を担当したNECは、「システムを利用する現場には、机上の設計だけでは分からない事情がある」(第二産業システム事業部マネージャの村田淳夫氏)と苦労を振り返る。

出品台数の増加に対応する

 TOM@S開発の背景には、トヨタユーゼックが扱う中古自動車出品台数が、1967年5月の営業開始から増加の一途を辿るという状況がある。同社の2004年の実績値は46万台で、業界全体の6.8%のシェアを持つ。これを10%に持っていくのが直近の目標である。「オークションには数の論理が働く」(オークション業務部の千原朝明氏)。2005年現在の会員数は1万5000人。出品台数が増えれば利益もリニアに増える。シェア拡大が、さらなるシェア拡大を生む。

成長を続ける出品台数(クリックすると拡大します)

 これまでも、出品台数の増加に合わせて情報システムを進化させてきた。営業開始当初は手で競りを実施していたが、1991年に競りの仕組みをシステム化させた。2002年には、2つの競り案件を同時並行で実行する2レーン化を実現、時間当たりに処理可能な台数を倍増させた。2005年現在では、「1時間当たり230〜240台を競っている」(千原朝明氏)。

2レーン同時にオークションが進む(クリックすると拡大します)

 オークションの開催スケジュールは、6カ所ある会場すべてが週に1回である。開催する曜日は3種類で、会場ごとに異なる。火曜日は九州と近畿、木曜日は東北と関東と中部、土曜日は横浜である。同じ日に開催する会場同士は、相互に相互のオークションに参加できる。例えば九州会場から近畿会場のオークションに参加して落札が可能だ。データベースを共通化しているわけではなく、相互が独立して運営している競りシステムに、INSネット64を経由してアクセスする仕掛けである。新システムのTOM@Sに移行しても、競りのための仕掛けに大きな変化はない。

横浜会場に並ぶ900台のオークション端末

 4月9日にオープンした横浜会場には、900シートの落札専用端末が並ぶ。端末からは、オークションの参加、出品番号を元にした情報検索、自社出品結果の履歴閲覧、などが可能である。オークション参加者は備え付けのボタン入力デバイスを操作することで、落札金額を吊り上げる。車種ごとの出品番号リストは、あらかじめ紙で配られる。落札業者は、落札したい自動車と落札金額の目安を決めて、会場を訪れる。

データ入力コストを効率化

 TOM@Sの狙いの1つである、データ入力業務の効率化は、出品台数のバラつきを吸収するとともに、入力処理の速度を向上させるものだ。データ入力業務の処理の流れとシステムの詳細は、以下の通りである。

伝票読み取り装置に採用した「デスクスタンドスキャナNS-1000」

 出品者は、定型フォーマットの出品伝票に必要事項を記入して提出する。出品伝票は、出品者が書き込む部分と、自動車の状態を評価するスタッフが書き込む部分とに分かれる。出品者が出品伝票を持ち込むと、守衛が伝票にバーコードを貼り付けた後、光学読み取り装置「デスクスタンドスキャナNS-1000」にかける。

 デスクスタンドスキャナNS-1000はCCDを用いてデジタル写真を撮影する装置である。NECが、元々は金融業務システム開発のために企画・製造し、1998年8月に40万円で出荷した。TOM@Sでは、伝票をNS-1000に置くだけで画像イメージを生成し、NECのデータセンターにあるデータベースに情報を登録する仕組みにした。

 持ち込まれた現車は評価スタッフがチェックする。キズその他の情報を出品伝票に書き込む。評価が終わると、NS-1000を用いて、完成した伝票の画像イメージをデータベースに登録する。イメージ・データのサイズは60K〜100Kバイト程度である。

試行錯誤の末に完成したデータ入力画面(クリックすると拡大します)

 出品伝票の画像イメージを元にして、最終的な出品伝票データを手動でデータベースに入力する。データ入力画面はVisualBasicで開発したもので、データ入力の効率化を助ける工夫を盛り込んだ。具体的には、出品伝票画像の中に表現されているデータ値を書き写しやすいよう、データ入力窓をデータ値の画像の下部に並べて表示する。データ入力担当者は、データ入力窓の上部に写っているデータを目視し、その値を入力するだけでよい。入力画面の工夫により、「初めてデータを入力するアルバイトでも、熟達したスタッフが入力していた従来の5倍の入力速度を達成できる」(内山厚一情報システム部長)。

 従来は会場ごとに分散していたデータ入力業務を、TOM@Sからはトヨタユーゼック本社内に設置した事務センターで一括処理する。これにより、データ入力担当者を会場ごとに独立して採用していた従来よりも、人材の稼動効率が高まる。

 1回のオークションに出品される台数は会場当たり1000〜3000台とバラつきがある。会場ごとにデータ入力を実施すると、3000台のピークに合わせた人件費を全会場で用意する必要があり、人件費が無駄になる。TOM@Sでは、6カ所のデータ入力作業を1カ所に集中化させ、短期雇用による労働力の増減を図ることで、人件費を効率化させる。

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