先進ユーザー企業のITとワークプレイスの融合術/リコー
リコーは2005年12月、青山の本社事務所と、銀座地区に分散していたオフィスを統合し、銀座の新社屋に移転した。それに伴って、新しいワークスタイルとワークフローを取り入れた。新社員証となるICカードをフルに活用して、セキュリティを強化し、OA機器管理の一元化を図る。
その上で、分散していた情報システムの統合化も進め、情報活用の新境地を狙う。
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銀座にある新本社は、25階建てビルの15階(約2万1400平方メートル)までを借り上げ、これまで拠点が分散していた営業や企画、人事、経理などの約1800人を集めた。リコーの新しい顔となる。
IT/S本部、IT/S技術センター副所長の栗野隆正氏は「新本社への移転では、課題となっていたセキュリティの強化を図りながら業務効率を上げることを重点的に考え、ワークスタイルやワークフローの変革に取り組んでいます」と話す。
副所長 栗野隆正氏
その主な変革テーマは、(1)セキュリティ、(2)TCO削減、(3)環境保全、(4)情報活用の4点。いずれも、OA機器メーカーのリコー自身のビジネスにつながる。新本社での実践結果を、今後の商品やソリューションの開発にも反映させていく考えだ。
変革に向けた柱となる施策は、ICカードを使った新社員証の導入だ。2005年夏から東京・品川のシステムセンターと、同年10月に開設した神奈川県海老名市のテクノロジーセンターで、このICカードを利用した入退室管理を実施しており、新本社で導入は3拠点目となる。
ICカードは、入退室管理のほか、PCのログイン、MFP(複合プリンタ)の利用管理、社員食堂の精算業務など多目的に使うが、特にセキュリティ面が重視されている。
新本社では、ビル入り口のゲートでICカードによる入退室をチェック。さらに、ビル内部を3段階のセキュリティ区画に分け、ICカード所有者ごとに入室可能な区画を制限している。たとえば、一般社員が持つICカードだと高セキュリティ区画のサーバールームには立ち入れないわけだ。
リコーグループは2004年12月、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証を取得している。ICカードを使った入退室管理は、ISMSに則って物理的にセキュリティを管理するためのものだ。
ICカードを使って印刷におけるミスを防止
新本社のICカード運用で特徴的なのは、MFP管理にも使っている点だ。
1フロア当たり約200人が働いている一般オフィスフロアには、コーナーごとに3台のMFPを3コーナーに配置(写真2参照)。計9台が設置されているが、その一元管理に役立てる。
管理の仕組みは、利用者がICカードを使ってPCへログインした後、PCからMFPへ印刷を指示。すると印刷ジョブは、プリントサーバーにキューとして留め置かれ、利用者がMFPの前で備え付け(またはマシン搭載)の読み取り装置にICカードをかざし、認証されないと紙で出力できないというもの。同様に、MFPのコピーやスキャナの機能を使う場合も、ICカード認証が必要だ。
このため、排紙された文書を部外者にのぞき見られたり、取り忘れで紛失させることもなくなる。
ここまでなら「セキュリティ印刷」として取り組んでいる企業もあるが、OA機器メーカーであるリコーは、一歩先をいく感がある。ICカードによるMFP管理は、環境保全や利便性向上での効果も狙っているのだ。
たとえば、ICカードで認証すると個人別に蓄積された印刷ジョブがMFPの操作パネルに表示される。そこで出力文書を選択するが、誤って印刷指示を出したものは簡単に削除できる。紙を無駄にせずに済むのだ(写真3参照)。
「これからの運用になりますが、ミスプリントが全体の何%ぐらいあり、その結果、紙削減にどれぐらい効果があるのか見えてきます」(栗野氏)。
また利便性の面では、新本社には上層階と下層階で2台のプリントサーバーが設置されており、ICカード認証さえ受ければ、出力指定先のMFPと同じ階層にあるMFPならどのマシンからでも出力できる点が挙げられる。
社内ネットワークで結ばれた拠点から印刷を指示し、打ち合わせ等で出向いた銀座本社で紙を出力するといった使い方もできる。同時に、機密文書の外部持ち運びも減らせるわけだ。
さらに、トナーや用紙の発注・交換や破棄する機密文書の回収、トラブルの一時対応などは従来、部門ごとに実施していた。これを、新本社ではサポート窓口に一元化。MFPの運用管理を効率化し、TCO削減を図っている。