具体的には、新たに電子決裁や文書管理等のシステムを導入し、ペーパーレスの促進と事務処理時間の短縮を図る。また、国や県との総合行政ネットワークである「LGWAN」と連携し、電子入札や電子申請などへの対応を目指すといった具合だ。
その第一弾として、文書管理や電子決裁、財務会計の効率化への対応に乗り出すこととなった。厚木市での財務伝票作成量は、年間約21万件。年間決裁件数は41万5000件近くに及ぶ。また、文書作成量は、年間約170万ページを越えていた。これらを電子化できれば、業務効率が上がるのは目に見えていた。
そこでまず、NTTのスーパーワイドLANを導入し、市役所や小中学校、公民館、病院など100拠点を結ぶ高速ネットワークを敷設。土台となるIT基盤の構築に着手した。
各業務システムの構築には
まずセキュリティ強化が必須
厚木市がIT基盤として位置付けたのは、「職員認証システム」だ。同市役所市政企画部情報政策課情報政策係の香田英一氏は「文書の電子化や電子決裁を実現するとなると、まず避けなければならないのは、なりすましなどに対する情報セキュリティの問題でした。より高いセキュリティを実現する基盤が必要だったのです」と話す。
そこで、総合行政情報システを3段階に区分し、まずはセキュリティの確保を目的とした「統合セキュリティネットワーク」を構築。次に「文書管理・電子決裁システム」に取り掛かった(図4参照)。
具体的に、統合セキュリティネットワークで実現する項目は、以下の5点だ。
- ネットワーク認証
- シングルサインオン
- PC利用時のセキュリティの確保
- 職員の出退勤管理
- 職員身分証
「これまでは、IDとパスワードによる管理が主体でしたが、それではセキュリティが低いと判断しました。生体認証などの導入も検討しましたが、結局はICカードを導入することにしました。これは、非接触である点と、券面を名札や身分証明書として利用できるメリットがあったからです」(同係主査 小嶋正巳氏)
厚木市役所の全職員約2000名を対象としてICカードを配布するとともに、役所内の出入り口にカードリーダーを設置。出退勤を管理する仕組みとした。また、ほぼ全職員が1人1台のPCを割り当てるべく、新たに約1700台導入。PCのアクセスにもICカードを活用することにした。
1人1台のPCを割り当てたのは、業務の利便性向上だけをにらんだものではない。個人情報保護の視点も大きく関わっている。たとえば万が一情報が漏れた場合、いつ、どのPCから、なぜ漏れたのかを特定する必要がある。1人1台のPCがあり、さらにそれがICカードで守られていることは、いわば高セキュリティを実現する最低条件だった。特に、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を発端として、自治体に対する個人情報の取り扱いがクローズアップされている。そのため、情報の持ち出しに対しては、特に細心の注意を払う必要があった。
これらセキュリティ要件が固まったのを受けて、IT戦略会議やその下部組織が、2002年に総合行政システムの仕様を決定。それをコンペ方式でベンダに提出した。最終的には、主要SIベンダとしてNECがシステム構築を担当することになった。
2003年夏から、実際のシステム開発がスタート。プロジェクトでは、厚木市役所の情報政策課が事務局となり、各関係部署を取りまとめることになった。総合行政情報システムのプロジェクトは、複数のシステムからなるため、関係部署も多岐にわたる。そこで、各課にはITチームリーダーを置き、直接ベンダと調整するスタイルとした。