米Corrigentsystemsは2000年に設立された伝送装置専業のベンチャー企業だ。同社が開発する光伝送装置「CM-100」は、アクセス回線と基幹網を結ぶメトロネットワークにおいて、光回線でIPトラフィックを効率よく処理するためのリング型網の経路制御技術である「RPR」(Resilient Packet Ring)を使っている。対応速度は1ポート当たり10Gbpsだ。
同社のCM-100は、2004年にKDDIの固定電話サービス「メタルプラス」や個人向けFTTHサービス「光プラス」のインフラとして採用されている。ベンチャーが大手メーカーに競り勝ったとして業界内で話題を呼んだ。同社のCTOであるLeon Bruckman氏に話を聞いた。
--日本の通信市場の特徴をどのように見ていますか。
日本の通信技術は米国と並んで進んでいると思います。日本の場合、光ファイバーが豊富であり、一般の消費者が使えているのはうらやましいと思っています。
我が社のCM-100は、10Gbpsに対応しており、通信市場においてトップであり、日本はトップの優位性を生かせる環境があると思っています。物理層のSONET/SDH(光同期伝送網)とRPRで通信サービス用の大きなパイプを確保できることから、さまざまな通信サービスを押し込んで、トラフィックを綿密に管理することができます。
--なぜ10Gbpsを実現できたのでしょうか。
まずは、その発想から話しましょう。もともと市場には物理層でSONET/SDHという伝送技術のパラダイムが存在していました。その一方で、データのトラフィックは増大し続けるとの傾向がありました。
しかし従来のパケットの伝送装置では、伝送の設定の精度が荒く、かつ柔軟性に欠けていました。そのままではSONET/SDHでは限界があるということが見えていました。そこでわれわれは、この問題を解決するために「パケットADM(Add Drop-Multiplexer)」と呼ばれるシステムアーキテクチャを開発し、このシステムアーキテクチャでCM-100を開発しています。
パケットADM以前の伝送技術は2つあります。そのひとつが、複数のネットワーキング要素を組み合わせるMSPP(Multi Service Provisioning Platform)であり、もうひとつがルータをベースにしたものです。
しかし、MSPPではSONET/SDHの限界があるためにパケット伝送が最適にできませんでした。また、ルータをベースにしたものでは、パケット伝送に使うとコストがかかってしまうという問題がありました。そこでパケット伝送に最適なものとして、パケットADMをかいはつしたのです。
他社の場合ですと、複数のスイッチング機構を使ってTDM(時分割多重)のトラフィックとパケットのトラフィックを処理しているのですが、われわれのパケットADMでは、1つのスイッチング機構でTDMのトラフィックとパケットのトラフィックも処理することができます。
またわれわれは、レイヤ3のネットワーク層に手を出さずに、レイヤ1の物理層とレイヤ2のデータリンク層の伝送技術に注力しました。このこともあって10Gbpsを実現できたと思います。
--他社のRPRでは2.4Gbpsにとどまっていると聞いています。
RPRはデータレートが高いほど、その技術の特徴、その機能を生かせます。他社の場合、10Gbpsを出せても、われわれとはアーキテクチャが異なっています。というのは、他社製品は、従来からあるレガシーのアーキテクチャの上にRPRを作っています。そのためにレガシーのスイッチの限界以上を出せません。その点、われわれはこれまでのレガシーがなく、10Gbps用のプラットフォームの作り込みをしています。
我が社は、メトロネットワーク、その中でも市場で大きな成長を続けている10Gbpsに対応した製品開発をしています。確かに2.4Gbpsの市場は大きいですが、すでにできてしまった市場であり、MSPPに占拠されています。
一方の10Gbpsは今後も大きな成長が見込まれています。というのは、キャリアは今までよりも進んだ通信サービスをエンドユーザーに提供したいと思っており、そのためには、より広い帯域を確保する必要があります。その時に、われわれとしては新しい選択肢を提供したいと思い、10Gbpsに対応した製品開発をしようと思って、CM-100を提供しています。
--日本の企業は品質というものに高い意識を持っています。特にキャリアは通信の品質にかなりの神経を使っています。そういった状況があるなかで、CM-100はKDDIに導入されています。
日本の通信の市場に参入できたことを非常に誇りに思っています。KDDIというキャリアが採用してくれたからです。
われわれは、装置に障害が発生しても耐えられるだけの冗長構成をフルに実装しました。また仮に障害が発生したとしても50ミリ秒以内の復旧が可能です。これらのことができたおかげで、日本市場に参入できたと思います。
また、われわれの製品には「CM-View」という管理プラットフォームがありますが、これは、ボード1枚はもちろん、ポート1つずつを包括的に制御することができます。このプラットフォームでは、自己診断機能も搭載されています。
機器を構成する部品に問題がある場合、わたしたちはその問題を突き詰めて分析することを実践しています。これらのことが、KDDIでの採用につながったと思っています。わたしたちはKDDIに多くのことを学ばせてもらいました。
--日本市場は、米国に次いで2番目に大きな市場になるのでしょうか。
リング型網の10Gbpsという点で見ると、日本が最も大きな市場だと見ています。メトロネットワークでこれほど大きな市場は現在、ほかにないでしょう。というのは、日本市場は新しい技術を受け入れやすい国ということがあるからだと思っています。
米国は2000〜2001年のいわゆるITバブル崩壊の痛手があまりにも大きく、通信市場の回復はいまだに緩やかです。そのため、キャリアは新技術に保守的であり、大きな変更に抵抗があり、技術的に先に進んでいません。
その点で日本は、大手であっても新しい技術を果敢に導入して、先に進もうという姿勢があると感じています。