イノベーションの震源地
2006年はSaaS(Software as a Service)が新しいソフトウェアの提供形態として注目された。そして、その牽引役とも言えるSalesforce.comが「AppStore」と呼ばれるサービスの概要を2006年12月に発表した。
Salesforce.comが提供するプラットフォーム上にてソフトウェア企業がアプリケーションの提供を行い、Salesforce.comはそのマーケティングに関わる費用を販売時に受け取る。これは、参加するソフトウェア企業そのものを取り込むのではなく、それらに対してビジネスのプラットフォームを提供することで、その多様性を維持しようという試みと解釈できる。
「AppStore」は、2007年に運営が開始される予定であり、そこから新しいソフトウェア企業がビジネスを拡大できるか注目したいところである。
また、2007年もオープンソースはイノベーションの震源地であり続けるだろう。2006年、大手ソフトウェアベンダーはオープンソースの取り込みを積極化したが、一方で、オープンソース側もビジネス戦略を明確にする動きが目立った。
Red Hatを巡る動きがその象徴であるが、Red HatがJbossを買収して収益基盤の強化に動く一方、OracleがRed Hat Linuxのサポートビジネスに参入するというニュースは業界に衝撃を与えた。
こうしたオープンソースのエンタープライズ領域への深耕は、オープンソース陣営にビジネス戦略を持つことを促し、オープンソースの持つイノベーション力の維持に繋がると考えられる。オープンソースの存在意義が大きくなるほど、大手ソフトウェア企業とのせめぎあいも激しくなるだろうが、これがソフトウェア業界への強い刺激となることは間違いない。
そして、最後にインド、中国などの新興国のITマーケットを挙げたい。新興国はソフトウェア開発のアウトソース先として捉えられることが一般的であるが、Oracleによって買収されたi-flexに代表されるように、かつて2000年問題への対応に力を発揮したインドのソフトウェア業界は、R&D投資を拡大し、イノベーションの震源地へと姿を変えつつある。
市場としてのインドや中国は、その人口の多さから考えてもIT化による恩恵を最も強く受けることができる。そうした地域におけるITの発展は、新しいイノベーションの可能性を示唆する。欧米においてソフトウェア企業が寡占化の道を進む中、新しいテクノロジーの可能性が新興国企業から生まれる可能性は否定できないだろう。
2006年、我々は世の中がフラット化していくのを目撃した。2007年、我々はそこに穴を掘り、山を築いて変化のある大地を作り上げる必要がある。コンシューマー領域においても、エンタープライズソフトウェアの領域においても、我々が求めているのは、統一されたプラットフォームの上に実現される均質性ではない。我々が求めているのは、統一されたプラットフォームにおける多様性なのである。