工事進行基準適用に必要な管理体制構築を“進化のステップ”で見る(後編)

木村忠昭(アドライト) 2009年05月22日 08時00分

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前編はこちらです

第3ステップ:実際単価を用いた個別原価計算制度の構築

 次のステップは、プロジェクト別の製造原価を把握するために、実際単価を用いてすべてのプロジェクトに対して個別原価計算を実施するステップだ。原価計算基準においても実際単価を用いた原価計算が認められていることから、このステップにおいて、基準上求められている原価計算制度が構築されることになる。

 すべてのプロジェクトに対して原価計算を行っていくためには、前編で説明したタイムレポート制度や費用集計などの対応のポイントをおさえたうえで、管理事務負担の増大への対応として、管理システムなどを導入してプロジェクトごとの管理体制を強化していくことが欠かせない。また、原価計算のサイクルは、月次で実施することになるため、個別原価計算の会計仕訳の起票と、月次決算プロセスへの織り込みが必要になることにも留意したい。

 このステップの問題点としては、財務会計上、基準に適合した原価計算の方法であり問題はないようにもみえるが、月次の費用計算が終わった後でないと費用集計の単価を算出できず、プロジェクト別の製造原価の把握が遅れてしまうという点が挙げられる。これは、経営管理を強化していくうえでの課題と言えるだろう。

第4ステップ:予定単価を活用した個別原価計算制度の構築

 次のステップは、予定単価を活用して原価計算を実施していく段階だ。これにより実際単価を用いた原価計算の課題を克服し、月次の費用集計前でもプロジェクト別の製造原価が把握できるようになる。そのため、プロジェクトの製造原価をタイムリーに把握し、全社的な意思決定を迅速に行ううえでも有効な管理体制となる。

 ここでの対応のポイントは大きく二つ考えられる。ひとつは、予定単価を適切に設定し、実際の発生費用との乖離を少なくしていくことだ。また、原価計算基準上の予定単価として対応を進める場合には、この単価でプロジェクトごとの製造原価が会計帳簿に記録されていくことになる。そのため、予定単価の財務会計上の取り扱いを明確にするとともに、決算との連動についての仕組み作りも対応すべきポイントと言える。

 いずれにせよ、このような予定単価を導入することで、プロジェクトごとのタイムリーな製造原価の把握が可能になる。ここからさらに進展させて、プロジェクトごとの将来の損益までタイムリーに把握し、経営管理を強化していこう、というのが次のステップだ。

第5ステップ:プロジェクト別損益管理の実践

 このステップが、先読みのプロジェクト管理体制、すなわち各プロジェクトの現在の製造原価の把握のみならず、将来のコストの予測とあわせて、プロジェクト別の損益の着地見込みを把握していく体制だ。とはいえ、何も特別なことを行っているわけではなく、「どのプロジェクトからいくら利益が出るか」を高い精度でタイムリーに把握しているにすぎない。これは、全社的な経営と意思決定を行っていくうえで、いずれ当然に必要となる体制と言えるだろう。

 対応のポイントとしては、プロジェクトごとの受注額と現在の製造原価、そして将来発生するであろう製造原価の情報を一元管理し、状況次第でこれらが変化した場合には適時に反映させる運用体制だ。また、将来の製造原価を予測するうえでの単価と工数も必要になるため、これらもあわせてはじめて精度の高い損益予測が可能になるのだ。

工事進行基準と原価計算

 最後に、このようなプロジェクト管理体制の構築ステップと、工事進行基準の関係について考えていきたい。お気づきの方も多いかと思うが、工事進行基準の適用のためにはここでいう第5ステップにおける対応が必要になる。

 工事進行基準への対応には、より精度の高いプロジェクト管理体制が求められるようになったということは以前から説明してきたが、今回は、それを個別原価計算における進化のステップという視点を用いて構築プロセスと対応のポイントをまとめた。いずれにしても、工事進行基準適用のための管理体制を構築するためには、これらすべてのステップの課題をクリアしなければならず、一朝一夕に工事進行基準を適用できないということを理解できたのではないだろうか。


木村氏
筆者紹介

木村忠昭(KIMURA Tadaaki)
株式会社アドライト代表取締役社長/公認会計士
東京大学大学院経済学研究科にて経営学(管理会計)を専攻し、修士号を取得。大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務・法定監査業務を担当する。
2008年、株式会社アドライトを創業。管理・会計・財務面での企業研修プログラムの提供をはじめとする経営コンサルティングなどを展開している。

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