顧客のニーズを知り、業界の先を走る--ヘルスケア業界に見るIBMの成功の秘密

文:Noah Buhayar(Special to BNET) 翻訳校正:石橋啓一郎 2009年07月28日 13時31分

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 経済は最悪の状況だが、それでもIBMは営業に成功しているように見える。その秘密は、綿密な調査、絞り込まれた戦略、そして根気強く実行することにある。しかし、それらの要素をどう組み合わせたらいいかを感じ取るには、IBMがヘルスケアサービスの提供者にITを販売する主要なプレーヤーとして、どのように地位を確立したかを見てみるとよいだろう。

 2005年には、IBMはヘルスケア業界では問題外の存在であり、同社が病院や保険業者に売り込んでいたのは、その多くがデータストレージやネットワーク周りのコモディティ製品だった。IBMのGlobal Health Care and Life Sciencesグループの営業担当ディレクターであるAndrea Cotter氏は、「われわれは地下室のサーバのようなものだと思われていた」と述べている。

 しかし2009年には、世界的な景気後退が起こっているにも関わらず、状況は劇的に変わった。IDCのアナリストScott Lundstrom氏は、「IBMはヘルスケア業界で、市場よりも速い成長を見せ、特にサービス部門で強みを見せた」と述べている。同氏はまた、IBMは連邦政府の電子健康記録に対する投資刺激政策などの新たな市場を獲得するために体制を整えることで、過去2年から3年で、同部門の4000人の販売部隊がヘルスケア業界の主要なアウトソース案件のほとんどを勝ち取っており、これにはKaiser Permanenteとの5億ドルの契約も含まれていると付け加えた。

 確かに、IBMの成功の一部は、ヘルスケア業界の継続的な強さとIBMブランドの力によるものだ。しかし、それらはIBMの力の集中と実行力の重要性の前では比較的小さなことだ。「営業部門は、今月のお勧めを信奉しているということで悪名高い」と営業コンサルタントであり、「SPIN Selling」の著者でもあるNeil Rackham氏は言う。「IBMが優秀なことの一つは、それを徹底的にやり抜くことだ」

 困難な時期にIBMがヘルスケア業界で事業を拡大するために使った戦術の多くは、どんな業界におけるどんな販売にも適用できる。Cotter氏によれば、重要な要素は、信頼されること、顧客のニーズを知ること、業界の先を走ることだ。

ヒント1: 信頼を構築する

 2005年に、IBM Center for Healthcare ManagementのエグゼクティブディレクターJim Adams氏は、ヘルスケアの今後10年間のグローバルな見通しを作り上げるという責任を与えられた。IBMが病院、保険会社、政府機関への販売を拡大していこうとすれば、ヘルスケアビジネスがどこに向かっているかという見方を確立する必要があったのだ。

 その結果が、「Healthcare 2015: Win-Win or Lose-Lose」と呼ばれるレポートで、この中ではヘルスケア業界が直面している主要な課題と、よりよい選択のために必要となる構造変化についての概略が示されている。「われわれがやりたくなかったこと--そして一部のベンダーはそうしているのを知っていたのだが--は、進んだテクノロジーがすべての問題を解決するというバラ色の世界を描くことだった。それが、考えの深さを示すことになるとは思えなかった」とAdams氏は述べている。

 次の一歩は、IBMの分析を市場でテストすることだった。Adams氏とその同僚は、Healthcare Information and Management Systems Society(医療情報管理システム学会)などの組織のカンファレンスで発表を始めた。彼らはこの分野のリーダーたちとパネルディスカッションを行い、ヘルスケアの変革を唱える存在としてのIBMの信頼を確立し始めた。彼らは、何かを売ろうとはしなかった。ただ単に、IBMが問題を理解しており、あり得るソリューションに対する洞察力を持っているということを示しただけだ。

 顧客はそれに気づいた。たった1年で、潜在顧客に対するヘルスケアITを提供する企業としてのIBMの認知度は2倍になった。2年後には、ブラインド調査で同社がこの分野の好ましい事業者であると考えられるようになったことが示された。IBMのGlobal Health Care and Live Sciencesグループのジェネラルマネージャ Dan Pelino氏は、「われわれは、IBMのような大企業が何かを売ろうとしないことに対して市場が反応するだろうと考えた。そして、市場は反応した」と述べている。

 次第に、この信頼が直接的に売上に反映されるようになった。2008年には、IBMのAdams氏はヘルスケア企業のベテラン役員と並んで、多くのカンファレンスでパネルディスカッションの発表者を務めるようになった。あるパネルディスカッションでは、Adams氏は電子医療記録に関する議論に参加したが、そのディスカッションが終わると、ある病院組織の最高経営責任者(CEO)がAdams氏の所に来て、彼の分析は完全に正しいと思うと話した。業界の反対側の立場に立つ人間が、IBMがこの業界の専門性を高めていることを認めたのだ。カンファレンスなどでの露出が理由の1つとなって、ある保険会社は後にIBMと数百万ドル規模の契約を結んだ。

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