日本企業の社長や取締役になっても、夢のような収入は期待できそうにない。上場企業の社長の報酬総額が1億円以上は8.3%、取締役となると1.4%しかいないからだ。
政府は3月31日に、有価証券報告書に社長や取締役がもらう報酬を個別に記載することを義務付ける法令(「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」)を発表した。2010年3月期の有価証券報告書から適用される。今回の改正内閣府令が注目されるのは、報酬総額が1億円以上の役員の氏名やその総額などを明らかにする必要があるからだ。
このことに対して日本経済団体連合会(経団連)は、「欧米企業と報酬体系や水準が異なる中で、役員報酬が個別に開示されれば、プライバシーやセキュリティの問題が生じることが懸念される」と反対する意向を示し、経済同友会も「株主が重要視しているのは、経営コストとしての役員報酬の総額であり、役員ごとの報酬を開示すべき理由はない」との反対意見を明らかにしている。
経団連や経済同友会が役員ごとの報酬開示に反対するのは無理のないことだが、しかし、問題の本質は「どの企業の誰がいくらもらっているか」というワイドショー的やじ馬根性からではない。今回の改正内閣府令は、企業統治(コーポレートガバナンス)に対する規制強化という意味合いがある。
プライスウォーターハウスクーパースは今回の改正内閣府令に関連した説明会を4月7日に開催。その中で、冒頭に挙げた、日本企業の経営層の報酬の実態を明らかにしている(調査は2008年度中に行われ「役員報酬サーベイ2009」(PDF)としてまとめられている)。
強化され続ける企業統治
今回の改正内閣府令は大きく分けて(1)コーポレートガバナンス体制、(2)役員報酬、(3)株式保有状況、(4)議決権行使結果――それぞれの開示を求めている。
(1)のコーポレートガバナンス体制の開示は、企業がどのような体制で経営されているのか、その体制はどのような理由によるものなのか、内部監査や監査委員会を含む監査役の人員、手続きはどういったもので、内部統制部門とはどのように連携しているのか、社外取締役と社外監査役の機能、役割はどういったものなのかなどを有価証券報告書に記載する必要がある。
(2)の役員報酬開示は、役員区分ごとの報酬総額と種類別の総額を記載しなければならない。加えて、連結報酬総額が1億円を超える役員の氏名や役員区分、報酬額なども必要だ。そして報酬額と、その算定方法についての決定方針がある場合には、方針内容と決定方法も明らかにする必要がある。
具体的には、取締役と社外取締役、監査役と社外監査役が、それぞれいくら報酬をもらっているのか、その報酬は固定報酬がいくらで、業績連動報酬がいくらか、ストックオプションがいくらなのかなどを細かく明らかにしなければならない。
(3)の株式保有状況の開示は、純粋投資目的以外の目的で保有する株式の銘柄数と計上額の合計、その上位30銘柄などを記載するというもの。(4)の議決権行使結果の開示は、株主総会での決議ごとの議決権行使の結果を明らかにするというものだ。
コーポレートガバナンス体制の開示は、これまでの有価証券報告書でも詳細に開示する企業はあったが、最低限の内容を開示している企業は、2010年3月期の有価証券報告書でコーポレートガバナンス体制の考え方や体系を整理して詳細に記載する必要がある。同様に、役員報酬についても、2010年3月期の有価証券報告書では総額ではなくて、役員区分と種類別の報酬額を記載しなければならない。加えて、1億円以上の役員報酬は、個別に開示する必要がある。
なぜ、こうしたことが求められるのか? これは「企業へのガバナンス強化を求めるトレンドが強まっている」(プライスウォーターハウスクーパースのパートナーの若林豊氏)からだ。2000年代に入ってから米Enronの不正取引による経営破綻を契機に、投資家からコーポレートガバナンスの強化を求める声が上がっている。