ホントに3K? 意外に満足度が高いIT業界--不安なのは自分と会社の将来 - (page 4)

田中好伸(編集部)

2010-05-20 11:30

 そうした不安感を和らげるための“モノサシ”が、先に挙げたITSSであり、そのユーザー企業版と言える「情報システムユーザースキル標準(Users' Information Systems Skill:UISS)」だ。これらは、各種IT関連サービスを提供する上で必要とされる能力を明確にし、体系化した指標である。ITサービスプロフェッショナルの教育や訓練などに有用とされるモノサシとして、IPAは公開している(IPAが展開する事業の一つに人材育成があり、ITSSはその一環であり、「ITスキル標準センター」で情報を公開している)。

図8 図8:IT企業におけるITSSの活用状況(出典:IPA)
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 今回の白書では、このITSSの普及状況も調査している(図8)。ベンダー企業での普及状況を見ると、「活用している」としたのが従業員31〜100人で17.4%、101〜300人で28.6%、301〜1000人で41.0%、1001人以上で82.4%となっており、前回の調査よりも向上している。こうした結果から田中氏は「ITSSは大企業でほぼ普及が完了したと言える。もちろん中堅や中小では大手ほど普及はしていない」とまとめている。

 「ITSSは人材育成に取り組む体力のある企業に対しては、おおむね浸透したと言えるフェーズにある。今後、中堅や中小では、ITSSの活用を進めるにあたっては、新たな視点での取り組みが求められる」(田中氏)

図9 図9:IT企業がITSSを利用しない理由(出典:IPA)
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 田中氏によれば、ITSSを人事制度に組み込んでいる企業も実際に存在しているという。しかし、ITSSを活用していない企業が存在するのもまた事実だ。それについて田中氏は「ITSS自体がニーズに合っていない」と背景を説明する(図9)。最も多いのが「ITSSが自社の業務内容と合わないから」であり、次いで「ITSSを活用しなくても、独自の人材育成体系や基準がすでにあるから」「ITSSの活用によるメリットが分からないから」となっている。こうした状況を踏まえて、田中氏はITSSを普及させるために「従来とはアプローチを変更する必要がある」と主張している。また、UISSの普及率が伸び悩んでおり、UISS活用に対するアプローチも再検討すべきとしている。

 田中氏は「ITSSもUISSも経営に組み込んでほしい」と主張する。ITSSであれUISSであれ、プログラマーやSE、PMなどのIT人材が高度な技術力を持って企業活動に貢献しているのであれば、より処遇を改善する必要がある。ITSSやUISSというモノサシを活用することで、高い技術力や経験を評価して、技術者に見合った待遇を施すことができるからだ。

 田中氏は「ITSSは大企業に普及がほぼ完了した」としている。もちろん、大企業にITSSが普及しているといっても、その活用状況はさまざまだろう。人事制度に組み込んでいるところもあれば、評価指標の一つとしてITSSを参照しているに過ぎない企業もあるだろう。

 しかし、大企業に普及は完了したのだろうか? 個人の満足度調査で将来に対する不安を掲げていることとあわせて考えると、納得しづらい点もある。IT人材が社内でのキャリアに不安を抱えているというのは、将来のキャリアパスが見えづらいという不安を抱えているためでもあると想像できる。もし、ITSSが企業に普及しているのであれば、将来のキャリアパスに不安を持つということはないのではないだろうか。

 現在、現場で働くIT人材が仕事に見合っただけの報酬を得て、将来もIT業界で働いていたいと思わせるためには、ベンダーとユーザーの両者で企業ごとに独自の努力を続けることが必要だ。しかし、業界全体として人材育成を図るIPAとして、ITSSやUISSなどを普及させるためのさらなる努力が求められているのではないだろうか。

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